これまで連載「親たちへ 私がひきこもった理由」で、ひきこもり当事者の声を紹介してきました。では当事者を持つ親たちは、どんな思いでいるのでしょうか。また子どもたちとどのように接しているのでしょうか。今度は親の立場から「ひきこもり」の姿を見てみたいと思います。

進学などの相談も母親任せ「大事な成長の時期に不在」

 ひきこもりはかつて若者の現象として語られていましたが、高齢化とともに50代の当事者が、80代の親の介護やみとりに直面する「8050問題」がクローズアップされています。連載1回目は70代後半の父親、中田幸雄さん(仮名)に、話を聞きました。

 中田さん夫妻は都内で、20年近くひきこもっている長男(49歳)と暮らしています。他の子どもは家を出て独立しました。

 中田さんは都心の大企業に勤める、典型的な「昭和のサラリーマン」でした。「残業してから飲みに行き、帰宅はたいてい午前様。家が郊外にあり、通勤時間も長いので、睡眠は4時間くらいでした。でも仕事は好きだったし、会社を辞めたいとは一度も思わなかったですね。土曜はだいたい1日中寝ていましたが、日曜日は家族と車であちこち出掛けた思い出があります」

 当時、子どもと会話する時間はあまりなく、進学や就職などの相談も母親任せでした。「大事な成長の時期に不在だった」と振り返ります

 50代以降は、海外への長期出張や駐在が続き、定年後も海外の関連会社に再就職します。しかし2005年、日本にいる娘からの電話で、生活は一変しました。

 「うちはもうダメになっちゃう」