さまざまな分野の女性リーダーに、自分にとっての「働く」「育てる」を聞くこの連載。今回は、スウェーデン発の家具販売大手イケア・ジャパンを率いるへレン・フォン・ライス社長に、危機下のリーダーシップに必要なこと、中国・米国・日本に共に移り住んだ家族のこと、スウェーデンの社会などについて伺いました。

(後編)会議室に3人の女性を 能力発揮しやすい環境づくり

ヘレン・フォン・ライス/スウェーデン・マルメ出身。ルンド大学を卒業後、1998年にイケアのカタログを発行するIKEA Communicationsに入社。IKEA of Swedenでの勤務を経て、2007年にIKEA Communications執行役員に就任。2011年から中国にある店舗のストアマネジャー、2013年から米国法人の副社長を務めた後、2016年8月からイケア・ジャパン代表取締役社長 兼 Chief Sustainability Officer。19歳の長女、14歳の長男を育てる母親でもある。
ヘレン・フォン・ライス/スウェーデン・マルメ出身。ルンド大学を卒業後、1998年にイケアのカタログを発行するIKEA Communicationsに入社。IKEA of Swedenでの勤務を経て、2007年にIKEA Communications執行役員に就任。2011年から中国にある店舗のストアマネジャー、2013年から米国法人の副社長を務めた後、2016年8月からイケア・ジャパン代表取締役社長 兼 Chief Sustainability Officer。19歳の長女、14歳の長男を育てる母親でもある。

「グラスに水が半分も残っている」と思うようにする

―― 新型コロナウイルスの影響で困難な状況が続く中、リーダーとして意識していることはありますか。

ヘレン・フォン・ライスさん(以下、ヘレン) 今、これまで以上に正直で敏感なリーダーシップと対話が求められていると思います。未知の世界への不安がある中で、リーダーは自分の内面を見つめ、自分の気持ちに対してオープンになり、勇気と自信を見いだす必要があります。

 この危機が始まったときから、デスクに置いて何度も見直しているメモがあるんです。それは「常にポジティブでいるように心がけること」。自分が楽観主義でいれば、周りも楽観的でいることができます。「グラスに水が半分しかない」ではなくて「半分も残っている」と捉えることができれば、この危機の後、より良い世界が開かれると信じています。また、私たちの消費で生計を立てている発展途上国の人々にも共感を持たねばなりません。私たちはみんな、つながっているのですから。

 この危機が社会にもたらす影響は長期にわたりますが、会社としても従業員にサポートを提供し続けたいと思います。例えば、子どものケアが必要な従業員が休みやすい環境づくりや、マインドフルネスなど不安を取り除くためのオンラインのトレーニングの提供などです。

―― ステイホームで親も子どもも生活が一変しました。

ヘレン これから徐々に以前の行動に戻っていくと思います。人はそもそも、人に寄り添いたいと感じるのが自然で、ソーシャルメディアやテレビ電話を通してだけでなく、家族や友人に会えることの大切さをこれまで以上に感じています。一方で、仕事においては、新しい働き方へ移行するでしょう。ネットにつながっていれば家でもできる仕事をするために、わざわざ長い時間をかけて通勤するのはおかしいですよね。睡眠をよくとる、ストレスを和らげる、人と会うなど、人間本来のニーズを前向きに見つめることで、仕事もはかどります。ミーティングのためなどの出張は減ることになりそうですが、外の世界を見てみたいという人の好奇心は変わらないと思います。

 子どもたちに関しては、学校や保育園での日常生活が早く戻ることを強く願っています。できるだけ心地よく毎日を過ごさせてあげて、求めていることに耳を傾け楽しいことを一緒にする時間が大切ですね。学校でどれだけ勉強ができているかよりも、ありのままの姿を温かく見守って愛情を注ぐことが、子どもたちが成長する上での一番の自信につながります。