本連載では、学校への取材経験が豊富な教育ライターの佐藤智さんが、現役の先生たちに保護者が気になることを聞いていきます。連載第5回のテーマは「積み上げ教科・算数と国語のつまずき」について。子どもが算数の初歩段階から理解していないことが判明したとき、家庭ではどういった対応ができるのでしょう。また、教室内ではどのような対策が図られているのかなどについても現場の先生に聞きました。保護者会では出てこない先生のホンネや小学校のリアルな事情を聞いていきます。

【親が知りたいことを直撃! 先生のホンネ 学校のリアル】
これまでのラインアップ

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探究学習は調べ学習と違う? 適当にやる子ヘの指導法
通知表はどのようにつけている? カギは3つの「観点」
新しい担任に不安が 前の担任に相談していい?

【話を聞いた先生】
A先生 栃木県の公立小学校に勤務。新卒で先生になり18年目。
B先生 都内の公立小学校に勤務。新卒で先生になり5年目。
C先生 神奈川県の公立小学校に勤務。新卒で先生になり16年目。

「どこで分からなくなっているか」を見つけることが初めの一歩

 「『先生うちの子、算数ができないのでドリルをさせればいいでしょうか?』。そんな質問を保護者からよく受けます」

 そう語るのは、栃木県で小学5年生を教えるA先生だ。この質問に対して、A先生はすぐにはうなずかないという。

 「積み上げ教科の場合、今の学年のドリルをむやみにやらせても『できない』という体験ばかりが積み上がり、苦手意識がより大きくなる危険性があります。大事なことは、『どこから分かっていないのか』を明らかにして、そこに立ち戻ることです」(A先生)

 学校の先生は文部科学省の示した学習指導要領を基準として授業を展開している。先生であれば子どものつまずきを見つけることはそう難しいことではないという。

 「例えば、5年生では『倍数』や『約数』に苦手意識を持つ子が多いです。でも、これらはかけ算と割り算ができていればそんなに難しいことではない。だから、そもそもこうした子は、かけ算と割り算の時点でつまずいているのではないかと目算を立てます。ちなみに、『倍数』や『約数』は、以降に出てくる分数の通分と約分に必要になります。このように教育カリキュラムは体系立てて構築されています」(A先生)

 神奈川県の公立小学校に勤務するC先生も次のように続ける。「多くの先生が、子どもの間違いを見てどこでつまずいているのか見当をつけることができると思います。それに、教員が使っている教科書の指導書には系統表というものが付いていて、『ここが分かっていない子は、ここでつまずいている可能性が高い』といったことが拾えるようになっている。だから、何かしらのアドバイスをしてくれるはずです。

 算数が苦手とひと言で言っても、『計算はできないけれど図形問題は得意』という子もいます。逆もまたしかり。だから、担任の先生にまずは何をすべきか相談してみてほしいと思います」

 1年生の2・4・6・8……といった『2とびの数』や『5とびの数』は、2年生のかけ算につながっているので、上級生でもかけ算が苦手な場合はこの段階に戻ることもあるといった話も出た。高学年の子どもが低学年の内容でつまずいている際には、どんな寄り添い方が効果的だろう。東京都の小学校に勤務するB先生はこう語る。

 「授業では写真のようなブロックの教材を使って理解させることが多いですが、テストでブロックを使うことはできません。そこで、2とびの数であれば、丸(○)を2つ描いた上で、『もう一回丸を2つ書くといくつになるかな? 丸が4つになったね』と一緒に数えます。目の前の丸を数えればいいのだと学ぶと、子どもは自力で解くことができるようになります」

低学年の算数の授業で使うブロック教材
低学年の算数の授業で使うブロック教材