「深海魚」という言葉を聞いたことはないでしょうか。中学受験を経て中高一貫校に進学したものの、成績が著しく落ち込み、そのまま浮上しない生徒のことを指します。では、なぜそのような状況に陥ってしまうのでしょう。果たして、成績を上げられるものでしょうか。中学受験に詳しく、自身も武蔵中学で「深海魚」を経験したことがある、アテナ進学ゼミ代表の宮本毅さんに聞きました。

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「深海魚」を恐れて受験校のレベルを下げる必要はない

 ここ数年の中学受験では、実力以上の学校には挑戦せず、堅実校や安全校を受験する傾向があります。「万が一合格できたとしても、実力以上の学校に入ったら、深海魚になる恐れがある」と思って回避しているのでしょうか。

 宮本さんはこう答えます。

 「確かに近年の中学受験は安定志向の傾向があります。でも、それは新型コロナウイルス下で思うように勉強ができなかったり、感染を避けるために近場で良い学校があればと、学校選びの視点を変えてみたりしたことが大きかったと感じています。なかには深海魚になることを恐れて、ムリのない受験をしたという家庭もあるかもしれませんが、私は中学受験の段階では、先のことを心配して第1志望校のレベルをあえて下げる必要はないと考えています。ただし、併願校選びは慎重に検討することをおすすめしています」

 「中学受験の合格範囲は、偏差値でいうと20くらいの幅があります。例えば偏差値が65の学校の場合、上は偏差値75の学校を第1志望にしていた子が不合格になって、第2、第3志望校として入学してきます。一方、下は偏差値55レベルの子が、実力より10ポイント足りなかったけれど、チャレンジ校として受験してみたら合格して入学してくることがあります。よく中学受験の合否は数点差で決まるといわれていますが、それは合否のボーダーラインにいる子の話で、実際に入学してくる子の学力の差は当然あります」

 では、ギリギリ合格だと、やはり入ってから勉強についていけなくなり、深海魚になってしまう確率は上がってしまうのでしょうか。

 「そんなことはありません。入試は中学受験に特化したもので、中学に入れば新しい勉強が始まります。例えば算数と数学は、数字を使うという点では同じですが、考え方はまったく異なります。ですから、つるかめ算などの受験算数が苦手だったとしても、計算力があれば数学が得意になることはよくあります。英語に関しては、今は小学校で英語を学んでいるとしても、中学入試での出題はないため、ほとんどの子が同じレベルからのスタートです。入試でギリギリ合格だったとしても不安に思う必要はありません

 むしろ心配なのは、余裕で合格した子です。何を隠そう私自身がそうだったからです」

 宮本さんは、中学校に入ってからなぜ、「深海魚」になったのでしょうか。また、そうした「深海魚経験」をどのように克服したのでしょうか。詳しく聞いていきます。