自分で自分の毛を抜くのをやめられない「抜毛症」を知っていますか? 長期にわたり抜き続けると髪の毛が生えてこなくなり、ウィッグや帽子で隠すしかなくなります。発症年齢は10歳~13歳頃が多く、受験ストレスなどが引き金になることもあります。子どもの「抜毛症」に気づくために親ができることは? 国府台病院児童精神科診療科長、子どものこころ総合診療センター長の宇佐美政英さんに聞きました。

親に隠れて抜いている子も……

 「抜毛症(トリコチロマニア)」は髪の毛やまつ毛、眉毛など、自分で自分の毛を抜き続けてしまう精神疾患です。毛を抜く部位は髪の毛が72.8%、眉毛が56.4%、陰部が50.7%の割合です。

 本人は無意識のうちにやっているため、なかなか止めることができません。同じ箇所の毛を抜いてしまい、抜毛が長期間にわたると毛が生えてこなくなってしまうことがあります。そのため見た目が気になったり、対人関係に問題を抱えてしまったりする心配もあります。

 最も多い発症年齢は10歳~13歳頃ですが、児童精神科医の宇佐美政英さんによると「幼稚園や小学校低学年くらいの患者もいる」と言います。小児の患者に性差はありませんが、大人の患者では女性4:男性1と女性が多くなっています。

 「抜毛症の生涯有病率は約0.6~1%と約100人に1人はいるので、実はものすごく珍しい病気というわけではありません。しかし、抜毛症の子どもは親に怒られるのを恐れて隠したり、恥ずかしがって受診できなかったりするので、実際にどのぐらいの患者がいるのかは分かっていません」

抜毛症は無言のSOSのようなもの

 抜毛症の原因はストレスとされ、ストレスや緊張をコントロールしたり、回避したりするために抜毛をすると考えられています。宇佐美さんは、「自覚のないストレスや緊張をほぐすためにやっていることが多く、無言のSOSのようなもの」と言います。

 「思春期の子どもの場合、中学受験や学校のテストへのストレスや不安、自尊心の低下などネガティブな感情を背景に抜毛をすることが多いです。ただし、中には『退屈だから抜く』、『毛を指で引き抜くときのプツッという感覚がたまらない』と言う子もいます」

 「抜毛症」はそれほど認知度が高くないため、親が髪が薄くなった子どもに気づいても、即座に「抜毛症」だとは判断しにくい病気です。抜毛症の患者を対象にした調査では、患者の87%が抜毛症について知らなかったため治療をした経験がないと答えています。

 また、子どもの場合、本人が毛を抜いてしまうことを「恥ずかしい」「親に言ったら怒られる」と思って隠してしまう傾向があると言います。

 子どもの抜毛症に気づき、ストレスを抱えた子どもに寄り添うために、親はどんなことに注意すればいいのでしょうか。

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