小泉進次郎環境大臣が第1子誕生後の3カ月間に2週間分の育休を取ることを表明し、注目を集めています。2020年、男性による育児休業取得は広まっていくのでしょうか。大臣が取得する意義や今後の影響、現状6.16%にとどまる取得率を押し上げるための提言などを、各界の識者の方に聞いていきます。

今回は、出産や育児、男性育休にまつわるエビデンスを豊富に紹介した新書『「家族の幸せ」の経済学』著者で、東京大学教授の山口慎太郎さんに聞きました。

リーダーの取得には大きな意味がある

 小泉大臣の育休取得について、組織のリーダーが取得することは大きな意味があると考えます。

 例えば父親の育休取得率が70%を超えるノルウェーでは(2006年時点)、父親の同僚や兄弟など身近な人に育休取得者がいた場合、父親の育休取得率が11~15ポイントも上昇したという調査結果があります。さらに、上司が育休を取ったときの部下に与える影響は、同僚同士の影響よりも2.5倍も強いことが分かりました

上司が育休を取ることで、部下も取りやすくなる。画像はイメージ
上司が育休を取ることで、部下も取りやすくなる。画像はイメージ

 実はノルウェーでは、1977年に育休制度が導入されましたが、実際に育休を取る男性はわずか3%程度に留まっていました。国名と年代を隠してこのデータだけを見せたら「少し前の日本ですか」と勘違いする人がいてもおかしくない、そんな状況が長く続いていたのです。93年に、育休期間のうち4週を父親のみが取得できる期間として割り当て、その間に給与と同額の給付金を支給する改革を実施し、取得率は35%に上昇しましたが、70%とはほど遠い数字でした。

 当時のノルウェー政府は、父親の育休取得が思うように進まない理由として、「父親たちは、会社や同僚から仕事に専念していないと見られることを心配している」と分析しました。この理由も日本とそっくりなのです。19年の厚生労働省調査によれば、「職場に育休制度があり、利用したかったが利用しなかった」という男性に理由を聞いたところ、1位が「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」(38.5%)、2位が「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」(33.7%)という結果でした。

 かつてのノルウェーと同じように、日本の父親たちには「育休を取ったら仕事で悪い評価を受けるのではないか」という不安や疑心暗鬼があります。リーダー的ポジションの人が率先して取得することで、その不安を和らげることができ、後に続く人が出やすくなるでしょう

 さらに重要なのは、実際に育休を取った男性たちが、職場で「不利な扱いをされなかった」という事例を示していくことです。多くの男性たちは、勇気ある「ファーストペンギン」が海に飛び込むのを待って、「彼が大丈夫だったら自分も取ろう」と思っているはず。そこで、海に飛び込んだペンギンがシャチに食べられては、元も子もないわけです。

 企業が男性育休を推進しようと考えるなら、企業のトップや上司が育休取得者をきちんと守ってあげることが大切。かつ、「守られた」という事実を周知していくことが必要です。

 今回の事例でも、小泉さんが育休後に周囲から不利益な扱いをされないかどうかは、大きなポイントになります。ここで小泉さんが、「育休を取ってよかった」「公務に問題はなかった」「公私にわたって非常に充実した期間だった」と話し、その後も活躍していけば、「育休は取るものだ」という空気が広まるでしょう。小泉以前・以後で時代が変わったと言われ、歴史に名を残せる政治家になれるかもしれない。逆に、客観的な問題が生じれば「それ見たことか」と言われてしまう。時代の転換点になるかどうかが、彼にかかっています。