臨床の現場で多数の深刻な教育虐待のケースと向き合ってきた小児精神科医で青山学院大学教育人間科学部教授の古荘純一さんと、2児の母として、そして自身も支配的な家庭環境で育ってきたことを公言する「当事者」として教育虐待に強い関心を持つ小島慶子さんが対談しました。

「子どもには自由にさせている」だけでは不十分なケースもある

編集部(以下、――):教育虐待を防ぐという観点で、共働きの家庭が子育てにおいて注意すべき点はあるでしょうか。

古荘さん(以下、敬称略):1つ言えるのが、夫婦ともにキャリアにまい進している場合、「今の成功体験は自分たちの努力の結果」だと夫婦で見解が一致しやすいということです。もし、夫婦で学歴や地位のバランスが違うのであれば、視点のずれが生じるので、多様な選択肢が生まれやすい点がメリットになるのですが、二人とも似たようなコースで育ってきた夫婦は選択肢が少なくなりがちで、限られた進路しか想定できないことがあります。時代も違うのだから、自分が育ってきたのとは違うやり方で、という発想が広がりづらいとは思います。

 夫婦ともに社会的地位のある家庭の子どもは、「できて当たり前」とみなされるため、ストレスを抱えがちということも忘れてはいけないと思います。できなければ、本人の努力か親の手のかけ方のどちらかが不足していると思われてしまう。親にも子にも周囲から圧力がかかりやすい環境と言えます。本来は、親は親、子は子であるべきなのですが、優秀な親に類した成績を取るのが当たり前と見られてしまうのです。このような家で親が「子どもには自由にさせている」と思っていても、実は「自由にさせる」だけでは十分ではありません。子どもがプレッシャーを感じなくてすむよう、親は最大限の配慮をする必要があると思います。

―― 「パパやママと同じ大学に行ったり、同じような仕事をしたりしなくてもいいんだよ」「自分の好きな道を自分で見つけなさい」などと親が繰り返し伝えることが大切なのですね。

小島慶子さん(以下、敬称略):ちょっと教育から外れますが、似たような話がわが家にもあります。私も夫も背が高いため、よく人から「息子さんも大きくなるわねえ」と言われます。長男はすでに185㎝あるのですが、次男はまだ成長途中なので、「自分も本当に背が高くなるんだろうか」と、強いプレッシャーにさらされているのです。私は「身長では人間の価値は決まらない」ということを伝えたり、なるべく身長の話題を避けたりと、相当気を使っています。身長は遺伝的な要素も大きいので、周囲の期待に達しようが達しまいが、本人の責任はないですが、成績は本人の努力で大きく左右されますから、共にキャリアを積んでいる親の子どものプレッシャーはより切実でしょうね。

古荘:本当にそうだと思います。

―― ところで、日本以外の国での教育熱の実情はどうなんでしょうか。

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『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』

(小島慶子著、1540円、日経BP刊)

 2人の子どもの母であり、オーストラリア・パースで暮らす4人家族の経済的な大黒柱でもある小島慶子さん。日本とパースを数週間おきに行き来する生活の中で感じた、夫婦や子ども、社会、働くことへの思いを綴ったエッセイ集です。

【「はじめに」から抜粋】

 親はついこの前まで親ではなかった素人です。だけど人間を一人育てるというとんでもない仕事を、ぶっつけ本番でやらねばならないのです。(・・・中略・・・)

 混んだ電車に飛び乗り、髪を振り乱して保育園に迎えに行き、ようやく帰宅してから食事入浴をこなし、寝かしつけでつい寝落ちして真夜中に目覚めたときの絶望感といったら。重い体を起こし、散らかった部屋を片付けて、保育園のノートを書かなくちゃならない。うんざりしながら、すやすや眠るわが子の寝顔に、もっと優しくしてあげたかったのにと胸が締めつけられて…。その繰り返しでした。

【主な内容】

Chapter1 夫婦の話 夫婦の在り方って?につくづく思うこと
・「崖っぷち共働き親」の罪悪感と幸福
・夫婦のセックスレスに、我々はみな興味津々
・夫たちよ、鎧を脱いで育児・夫婦を語ろう 他

Chapter2 仕事の話 大黒柱ワーママをしながら考えてきたこと
・「ワーク・ライフ・バランス大嫌い」の方へ
・働く母は、約束とドタキャンが怖い!
・社会に出て20年、思い描いたキャリアとは違う世界に出合った 他

Chapter3 子育ての話 子どもから教わったこと、子に伝えたいこと
・入園前の親御さん、ハグしてチューしよう!
・子ども抜き「私の幸せ」へ猪突猛進せよ
・安全神話なき世にあっても生き延びる子に 他

Chapter4 社会の話 パースで、日本で、飛行機で、社会について思うこと
・40過ぎてADHDと診断され自分を知った
・仕事育児の両立は「女性だけの問題」でなくなった
・最高にクリエイティブで濃密な「今」に幸あれ 他

大黒柱ワーママ対談
・小島慶子×犬山紙子 未来へつなぐ共働き&子育て

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【本日から全国の書店&ネット書店で発売!】
『中学受験させる親必読!
「勉強しなさい!」エスカレートすれば教育虐待』

(日経DUAL編、1430円、日経BP刊)

 子どもの幸せを願わない親はいません。「ちゃんと勉強しなさい!」「宿題やったの? 」など、時に語気を強めてしまうことがあるとしても、それは本来、わが子にしっかりとした学力をつけさせ、生きていく上での選択肢を広げてあげるためのはずです。

 ですが、度を越した態度で子どもに勉強を強制したり、子ども自身の意志を無視して、わが子の学力に見合わないほど偏差値の高い学校に進学するよう強要したりと、親の行動がエスカレートしてしまうと、子どもの自己肯定感は大きく下がります。そして、生涯にわたって暗い影を落とすほどの弊害を招いてしまう可能性があることが知られるようになってきました。(中略)

 子どもの年齢に関係なく、すべてのお父さん、お母さんに知ってほしい、教育虐待のリスクや予防策、子どもへの適切な関わり方などをまとめたのが本書です。(はじめにより)

【主な内容】

第1章 中学受験 親の関わり方次第で子の将来にマイナスになることも
・中学受験 親が知っておくべきメリット・デメリット
・家庭の関わり方次第で中学受験そのものが「よい学び」になる【中学受験の4つのメリット】
・「何でも親のせいにする子」になる危険性も【中学受験の4つのデメリット】

第2章 教育虐待を理解する
・不登校や引きこもりより心配なのは、ひたすら我慢し続ける子ども
・100年時代を生き抜く強さが身に付かないという弊害も
・読者向けアンケート「ぼく、じゆうな日が一日もないね…」
・「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?

第3章 教育虐待を防ぐために親が心掛けるべきこと
・子の幸せ見極め教育虐待を防ぐNGワード&考え方
・13のチェック項目で、教育虐待かどうかを見極める チェックリスト
・家庭を子どもにとって「安心な居場所」にするための6つのポイント

第4章 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る
・約30%が「教育虐待を受けた認識あり」。連鎖を危惧する声も
・教育虐待の影響は世代を超えて波及し続ける
・学歴志向が強い日本のシステムに根本の原因がある?

第5章 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」
・「かつては教育虐待していたかもしれない」と語る3人のママたちの体験談を紹介

第6章 中学受験のプロが伝えたいこと
(プロ家庭教師 西村則康さん)
・中学受験は子どもの成熟度が影響する
・中学受験はお母さんが笑顔なら、たいていはうまくいく

第7章 小児科医と心療内科医が伝えたいこと
(慶應義塾大学医学部小児科教授・小児科医 高橋孝雄さん)
・基本的な能力は遺伝子が担保。親は安心して
・成長して引きこもるケースも。意思決定力が「やりたい」アンテナ育てる

(「本郷赤門前クリニック」院長・心療内科医 吉田たかよしさん)
・増加する受験うつ その芽が出るきっかけとなるのが中学受験
・中学受験直後の心はどう受け止める? 
・難関校に合格した子ほどハイリスク。過信せず、努力し続けることが大事

(名古屋大学医学部附属病院准教授・心療内科医 岡田俊さん)
・夫婦関係や親のメンタル不調が子どものストレス源に
・中学受験 親自身が不調になることも

【Column】子どもの心のSOS発信マンガ 愛しているのにまさか私が教育虐待?

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