自分の手を動かすことで記憶に残りやすい

宮本 知人から声をかけてもらったのがきっかけで始めました。最初は正直、私も「園児向けに実施して意味あるのかな」と思っていました。しかし、試験的に保育園で実施したときに、普段の子どもたちの様子を知っている保育士から見るととても反応がよかったとのことでした。このような経緯で、次の年度から本格的に月1回ペースで始めることになりました。

 最初は「なんか知らないおじさんが来たな」と緊張気味に実験をしていましたが、2回目から子どもたちが「どうしてだろう?」「なぜだろう?」と言い始めました。つまり考え始めたのです。まさにこれが「科学の芽」ですよね。このとき初めて、「保育園で実験教室を実施する意味があるな」と感じました。科学の勉強は「どうしてだろう」「なぜだろう」から始まります。今回の本には、料理以外に家庭でできる実験も掲載しましたが、これらはすべて保育園で実際に子どもたちと行っているものです。

 実験はなるべく自分で手を動かしたほうがいいです。そのほうが記憶に定着しやすいです。園児向けであっても小学生向けであっても、特別な必要がある場合を除いて、私は見せるだけの実験はしません。

中村 宮本先生の実験教室はいつもそうですよね。私も、子どもたちが見るだけでなく、参加できるかどうかを基準にして実験教室やワークショップなどを探しています。自分で参加できると、子どもたちの反応が全然違います。宮本先生のワークショップの入浴剤作りと、家でのラムネ作りのシュワシュワが娘の記憶に残り、すぐに頭の中で結びついたのは、自分で手を動かしたからこそだと思います。

宮本 見ているだけだと、マジックなどを見ているのと同じですよね。私は、基本的には子どもたちが、各自で実施できる体験型実験をすることにこだわっています。ただ、年齢によって、子どもが自分でするのが難しい作業もあるため、部分的に私が準備する場合はあります。家庭でする場合も、親が全部やってしまうことはお勧めしません。なるべく子ども自身の手で実験させてください。子どもが小さいときは、親が必要なところでサポートする程度でいいと思います。

なぜ料理がいいのか

中村 私は料理が専門ですが、例えばパンがきれいに膨らまなかったり、クッキーの焼き色が付きすぎたり、ゼリーがちゃんと固まらなかったりすると、「どうしてだろう」「なぜだろう」と考え、材料の配合や時間を変えて試作を重ねます。こうした過程はまさに条件を変えながら行う実験のようだな、と感じていたんです。その話を宮本先生にしたら「料理は化学。そうした理由はすべて化学で説明できます」と言われました。

宮本 はい。皆さんあまり意識していないかもしれませんが、料理は化学です。

中村 料理で失敗したときに「成功させるには、どうしたらいいんだろう」と考えるのも、先生がおっしゃる「科学の芽」なのですね。