三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任し、1993年、57歳の時に、生きものを歴史との関係のなかで捉える「生命誌」研究を目的としたJT生命誌研究館を設立した中村桂子さん。66歳で同館の館長となり、現在まで「生きもの」を研究し続けている中村さんは、同時に共働き家庭の大先輩でもあります。最終回となる今回は、中村さんが今の世の中に抱く危惧と、未来の子どもたちのためにすべきことについてお話しいただきました。

【JT生命誌研究館 中村桂子館長インタビュー】
(1)手が掛かる、思い通りにならないのが子どもと認めて
(2)子育て中 今だけ見てマイナスだと思わないで
(3)年に1度のキャンプより小さな自然を毎日見つめて
(4)子どもたちが機械に支配されず生きるのに必要なこと←今回はココ

「力」で支配する世の中では幸せになれない

片野編集長(以下、──) 中村さんもお話しのように、「生きものは皆違うことがいい」はずなのですが、社会では逆の傾向が強いと感じることもありますよね。同調圧力が強く、誰もが同じ土俵に立たされて、競争させられているというか。

中村桂子さん(以下、中村) そうですね。私は、競争は好きではありません。それぞれが真剣にやることが大事で、それぞれが自分の特徴を生かすのがいい。今は画一主義での競争が激しくなり過ぎているなと感じます。

 日本は普通の人の能力が高く、「集まって力を合わせてやっていこう」、つまり一体感で良質の社会をつくってきたと思うのですが、競争により経済的にも格差が広がってしまいました。競争社会は物差しが一つになり、異なる主張ができなくなります。「これは違うな」と思っても、組織の中で権力、経済力を持つための競争から落とされないようにと思うと、口をつぐんでしまう。それに慣れてくると一つの物差しになり、考えなくなります。それが怖いのです。

 一緒に仕事をしているときに、とても大らかで人柄もよい方が組織の長になったんです。この人が重要な地位に就けば世の中が変わるかな、組織が変わるかなと期待したら、「力」を得たことでその人のほうが変わって一律の考えになってしまった。私が見てきたことですが、皆さんも経験なさってきたのではないでしょうか。

 今のグローバルのあり方にも通じますが、地位のある人が権力やお金の力、組織の力、さらには武力を振りかざして、「自分の言うがままに動きなさい」と言う「力」至上主義の世の中になってしまっていると思うんです。それではみんなが幸せになることはできません。

 だからこそ私は、同じ「力」でも、本当に生きることを楽しむ「力」を生かしたいなと思いました。それこそが、『「ふつうのおんなの子」のちから』で伝えたかった「ちから」なんです。

── 権力争いが嫌いで抜けたいと思っても、それが収入の問題に直結しかねないため、抜けられずにいる人も多そうです。たとえ競争社会から抜けたとしても、次にどうすればいいか悩んでしまう。

中村 そうですね。何も昔が良かったという話をしているのではありません。もし今の世の中に疑問があるなら、昔に戻るのではなく、新しい「次」を見つければいいのではないでしょうか。

── 中村さんはどんな「次」の社会をお考えですか?