三菱化成生命科学研究所人間・自然研究部長、早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任し、1993年、57歳の時に、生きものを歴史との関係のなかで捉える「生命誌」研究を目的としたJT生命誌研究館を設立した中村桂子さん。66歳で同館の館長となり、現在まで「生きもの」を研究し続けている中村さんは、同時に共働き家庭の大先輩でもあります。

 インタビューの第2回は、共働き家庭の母親として、どのようなことを感じてきたか。先輩ママとしてのメッセージをいただきました。

【JT生命誌研究館 中村桂子館長インタビュー】
(1)手がかかる、思い通りにならないのが子どもと認めて
(2)子育て中 大変な「今」だけ見てマイナスと思わないで←今回はココ
(3)年に一度のキャンプより小さな自然を毎日見つめて
(4)子どもたちが機械に支配されず生きるのに必要なこと

5年間、100%引退して子育てをしていた

片野編集長(以下、──) 前回、中村さんは、子育ての時間は新しいことを考えるのにいいとおっしゃっていました。ご自身が研究者になった頃は、社会に進出する女性がまだまだ少ない時代で、なおかつ共働き家庭も一般的でなく、相当ご苦労があったと思います。その中で子どもと向き合うという時間はありましたか。

中村桂子さん(以下、中村) 共働き家庭は少なかったのですが、周囲には仕事と育児の両立を一生懸命やっているお友達がいて、皆さんの“がんばり”は素晴らしかった。でも実は私自身は30歳から35歳までの5年間、下の子が3歳になるまでの5年間は、仕事を100%引退して、子育てをしていたんです。

── ご家族の希望で退職されたのですか?

中村 夫やその親に反対されたわけではないのです。夫は大学の同級生で、お友達感覚でした。義両親もとても良い人たちで、具体的につらいことは何もありませんでした。ただ、時代というものはありましたね

 結婚後は夫の両親が住んでいる敷地内に小さい家を建てて、暮らしていました。両親は明治生まれでしたから、生まれたての子どもを置いて出掛けるという感覚は、全くありませんでした。それは意地悪ではなく、「思ってもみない、あり得ないこと」という感じがありまして、私はそれを説得する気持ちが出てこなかったのです。

 弱虫なんです。ただ今思うと「ふつう」の感覚を持っていたのかなと思います。ですのであまり頑張らず、ちょっと職場の先生方には迷惑を掛けるけれど、子どもに向き合おうかなと思いました

── 5年間、仕事から離れていたとなると、その後の再就職はどのような形で決まったのでしょうか。

中村 運が良いことに、上の子が5歳で幼稚園に通い、下の子が3歳という頃に恩師に「もうそろそろ、(仕事に復帰しても)いいでしょう?」と声がけしてもらったんです。ブランクもありますし、そんなにすぐに職が得られるとは思ってもみなかったのですが、たまたま新しい研究所を作るタイミングでもあり、そこへ誘ってもらって。実際に下の子を恩師のところに連れて行って「まだこれくらい小さいんですけど」と言うと、「もう大丈夫でしょう!」と。恩師にそう言ってもらったことで、決心がつきました。なんとありがたいことか、と今も先生の写真を飾っています。

── とても理解のある方だったのですね。お仕事に戻ることに家族は賛成していましたか?

JT生命誌研究館 中村桂子館長

次ページから読める内容

  • 人間は機械ではないと、子育てで実感
  • 一つ一つを一生懸命やると、次の世界が開ける
  • テニスになかなか参加できないのが、今の生活で残念な点

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