若いころの私は「そんな未来はお断り!」と怒るかも?

 産休後に仕事がほとんどなくなって電話取りをすることがなければ、キャリアについて視野を広げることはできなかったし、自分の本質的な欲求に気づくこともなかったでしょう。20代のころに思い描いていたアナウンサーとしてのキャリアは、30代でテレビのニュースをやり、40代でメインキャスターになれたらいいなあ…という漠然としたイメージでしたが、実際はラジオで力を発揮して評価され、制度づくりに生きがいを見出すようになったのですから、人生は本当に分かりません。

 その後、またラジオで週に一度のレギュラー出演が決まり、さらに自分の番組を持つことができて、次男が満3歳になった時には、会社の育児支援制度を全て使い終わっていました。それまでは、育児と仕事の両立を考えたら会社員であることに大きなメリットがありましたが、この時初めて「もしかしたら、会社員以外の働き方もあるのかも?」という考えが頭に浮かびました。

 今はベテラン女性アナがフリーになるのも珍しくないですが、2010年当時は、タレント並みの人気者というわけでもない入社16年目の女性アナが独立するのはあまり例がなく、どうしちゃったの?という目で見られましたが、でもまあ、一度しかない人生だし、違うことにも挑戦してみようと会社を辞めました。

 辞めた直後にエッセイの依頼をいただいて、思いがけず書く仕事も始めることになりました。ラジオパーソナリティとして独り立ちしようと会社を辞めたのに、エッセイストになったのですから本当に分からないものです。

 もし今、新入社員のころの自分に会いに行って「あなたねえ、ラジオで評価されて37歳で会社辞めて、エッセイ書くようになるよ」と言ったら、「ええ?! そんなの私がやりたいことじゃない! 私はテレビのアナウンサーとして大成するんだ! そんな未来はお断り!」って憤慨することでしょう。