息子は待っていたのに…

 お正月(夏休み)に、一家でアルバニーという街まで旅したときのこと。南極海に面したリトルビーチという浜に遊びに行きました。真っ白な砂が片栗粉みたいにキュッキュと鳴る天国みたいな場所です。次男は着くなりスイムパンツ一つになるとエメラルド色の海にダイブして遊び始めました。長男も加わって、兄弟で水遊び。私は足を浸して、南極海の水の冷たさにひるんですぐ引っ込めると、あとは浜に座った夫に任せて、歩き回って自由な時間を満喫していました。

 ああ本当に楽になったなあ、昔は子どもから一時も目を離せなかったのになんて思いながら丘によじ登り、上からビーチを眺めました。写真が好きな長男はやがて上がってあちこち撮影し始め、次男だけが海に入っています。飽きもせず、何度も波にダイブして。

 午後も遅くなったので、そろそろ帰ろうかと支度を始めたら、海から上がった次男が一言「ママと入りたかったな」と言いました。しまった、と思いました。彼は、待ってたんだ。私が水の冷たさに慣れて、彼と一緒に遊ぶのを。頭からダイブしては浜のほうを振り向いていたのは、父親の場所を確認していただけじゃなくて、私が彼のダイブをちゃんと見ていたか、確かめていたんだ。なのに私はのんきにあちこち歩き回ってた。しまった、しまった、しまった!!!

 帰りの車の中で「ごめんね、一緒に遊びたかった?」と言ったら次男は「ううん、大丈夫だよ」と言ったけど、私は落ち込みまくりました。どうしてちゃんと見ててあげなかったんだろう。中学生になって、もう幼児のころのように「ママ見て!」って言わなくても、子どもはサインを出している。それを見落として、二度とない瞬間を逃してしまった。寒くたって、一緒に波に潜ってあげればよかった。遠ざかる浜に大切な瞬間をいくつも置き忘れた気がして、涙が出そうになりました。