「あなたにも他の人にも、大事にされる価値がある」

 親は子どもに「ひどい目に遭っていい人なんていない。あなたはNOと言っていい」と教える必要があります。

 普段、大人の言うことを聞くようにしつけることはあっても、NOを言う訓練なんてしないでしょう。でも、必要なのです。たとえどんなにエラい人でも、お世話になっている人でも、友達でも、相手が誰であっても、あなたを好きなようにすることはできないし、あなたは「嫌だ」と言っていいのだと繰り返し伝えることが大切です。

 学校はその逆のことを学ぶ場所ですよね。みんな同じ時間割で同じことを勉強し、集団での行動を乱さないようにしましょう、と毎日たたき込まれるのですから。もちろんそれも必要な教育ですが、だからこそその前に、つまり学齢に達する前にきちんと「NOと言っていい」と教えることが大事だと思うのです。

 これは大人にも問われていることでしょう。働きながらいろんなことを飲み込んで我慢して諦めて、よき組織人であろうと自分に言い聞かせているけど、果たしてそれって正しいのかな? と自問することは誰にもあるはず。子どもには現実の社会を生きていく上でのさまざまな知恵が必要になりますから、「なんでもしゃくし定規に騒ぎ立てないでうまく受け流しなさい」と教える人もいると思います。でもそれはあくまでも世渡り応用編で、基本はしっかり押さえておかないと自分の身を守れない人になってしまいます

 基本とはつまり一言で言えば、人権についてちゃんと理解しておくということ。そんな難しいことは大きくなってから……ではなく、最初にこれを教えることが大事なのです。子どもに分かるように簡単な言葉で人権について教えるのは、大人の頭の訓練にもなります。

 私もいろんな工夫をしたなあ。一度では分からないから何度も何度も、日常会話の中でちょっとした機会を捉えては「あなたには大事にされる価値があるし、誰もあなたを好き勝手にはできない。同じように他の人にもあなたと等しく価値があり、あなたも誰かを好き勝手にはできないんだよ」と伝えていました。