4回にわたって、離婚の「基本のき」を弁護士の話とともにお届けしてきた「離婚大全」。最後は原点に立ち返り、「離婚」という選択そのものを見つめ直すことについて考えます。夫婦生活が破綻し、関係修復も見込めないと判断したときに人は「離婚」という重い決断と向き合うわけですが、一歩引いて冷静に考えれば、別居も選択肢に入ってくるのではないでしょうか。離婚と別居の金銭的なメリットを比較するとともに、別居とも違う、子どもにとっても安心できる「新しい家族の形」の可能性についても紹介します。

【離婚大全 特集】
第1回 もう無理…まずは離婚のプロセスを知ろう
第2回 弁護士に聞いた、離婚でもめるポイントと「対策」
第3回 知っておきたい 親権と養育費の実態
第4回 本当に離婚がベスト? 別居との比較 ←今回はココ

 「離婚より別居のほうが不利になることは、法律的にはありません。逆に別居のメリットは、率直に言って金銭面の話に尽きると思います」。小杉俊介弁護士は、別居という選択肢について明快に説明します。

 弁護士が離婚の相談を受けるとき、よほどの理由がない限り、「別居でもいいのではないか」と勧めることはごく当たり前にあるといいます。特に金銭的なメリットというのは、子どもがいる場合には比較検討に値する大きなポイントといえるでしょう。

離婚時の養育費より、別居時の婚姻費用の方が高い

 第2回の記事で、離婚へのステップとして「まずは別居」をスタートさせることが一つの手段だと紹介しましたが、妻(夫)が子どもを連れて家を出た場合、相手方に婚姻費用を請求することができます。

 婚姻費用とは、夫婦が共同生活を送るために必要な費用のこと。生活費をはじめ、交際費や子どもの教育費なども含まれます。別居中も、婚姻生活を維持するために必要な額を受け取ることができるのです。

 婚姻費用にも養育費同様、家庭裁判所が示す算定表に基づく相場があります。第3回の記事で一例として挙げた条件と同様に、0~14歳の子どもが1人いる会社員夫婦で、婚姻費用を払う側(義務者)の年収が700万円、受け取る側(権利者)の年収が600万円の場合で見てみましょう。

 養育費の相場が月額4万~6万円なのに対し、婚姻費用は6万~8万円。同様の年収の想定で0~14歳の子どもが2人の場合、養育費が月額6万~8万円に対し、婚姻費用は8万~10万円となります。2万円程度の差なら「離婚して新たなスタートを切ったほうがいい」と考える人もいるそうですが、逆に言えば「別々に暮らし、月々の費用を受け取る」という生活実態は別居も離婚も変わらないのだから、多くもらえるに越したことはないと割り切る考えも十分あるわけです。

 「昔ながらのパターンが、夫が愛人を作り、愛人と一緒になりたいと妻に離婚を求める。でも妻は、夫が十年以上家に帰ってこない場合でも離婚には応じません。婚姻費用が払われ続けるからです。高収入の人であれば婚姻費用もけっこう高額になるので、現実的な選択として別居を続けるケースもたくさんあります」と小杉弁護士。ちなみに養育費の支払い義務は子が自立するまでなので長くても20年程度ですが、婚姻費用は離婚が成立するまで受け取ることができます。

<次のページからの内容>
・養育費を受け取っている離婚家庭は2割以下
・働かない夫を「主夫」「ベビーシッター」と発想転換
・「今」と「離婚後」の金銭的なメリットを比較
・夫婦を卒業し、「シェアハウスの隣人」になる
・固定観念にとらわれず、「今より幸せな道」を