―― そういう世の中だからこそ、手を使う機会をつくるのがより大事になってきますね。

相良 モンテッソーリの手を使う材料として、際めて古めかしい洗濯とかね。テーブルの上に落ちたパン粉を掃いたりとかね。みんな笑いますよね、あんな古めかしい動作を、幼稚園で教えるなんてとかね。

―― 生活の中で本来の動きを見直すといいのでしょうか。

相良 ねじるとか手首を使うという動きは、教具がなくても、現代的な材料があれば私たちがそれを作ればいいんです。モンテッソーリが生きた時代は100年も昔だから。そこはモンテッソーリの教育をしている人の課題でね。昔のモンテッソーリが開発した通りの環境構成をしているけれど、私が以前話した京都のくすのき保育園さんなんかは、そういうふうに決まった特殊な遊具をそろえてというやり方では環境を整えさせていませんよ。

 彼らは、はっきりと就学前の基本は「折る・切る・貼る・通す・縫う」を自由自在に思った通りにできて、もちろん外で大きな体の動きや腕を使うように環境づくりをしています。指先を使うだけでなく、運動面もかなりちゃんとしていますが、洗濯をすべしといった決まった型をさせるようなことは気にしていませんね。もっと本質的な、この指先が動く、腕が動く、体が動くなど子どもの発達段階に応じたもの、子どもの興味に合わせ準備していて、それが今の生活の中でもちっとも違和感がないものを繰り返しさせています。一度作って終わりではなく、その年、その時期の子どもの姿を見て、各年齢ごとに準備しているんです。とても賢いと思いますよ。

―― 今身近にあるものでできるように、本質的なエッセンスが入ったものを自分で手作りしてもいいんですね。

相良 そう。今あるもので子どもが興味を持つものがありますから。私はやっぱりモンテッソーリ教育様様と言って、色々なコースで作った教材を恭しく、そのまま教えているコースに対しては非常に批判的です。もっと現代に本質的に子どもにとって必要な本質的な動きを見極めて、そしてそれを心ゆくまで繰り返せるような教材を手作りでもできるといいですね。

モンテッソーリ流 反抗期の備え

―― 生命の法則を正常に伸ばしてきた子どもも、思春期になると反抗期が来ます。反抗期には親はどう捉え、どのようにそのエネルギーを消化したらいいのでしょうか。

相良 私が色々な方に聞いたところでは、幼児期に溢れ出る子どもの命に立ち会ったお母さんたちは、反抗期に出てくるエネルギーに対してもあまり当惑しないですね。それから、幼児期に秩序感とかを大事にしてもらった子はそんなに反抗期がないようです。無気力なんじゃなくて無茶なことに反抗しないんですね。

―― 当惑しないというのは、大人のほうもちゃんと、幼児期の強力なエネルギーに対する関わりを通ってきているから。

相良 そう、あの幼児期に見た生命力、エネルギーの思い出っていうか実感があるから。もう不動の信頼がありますからね。そんなに反抗期の激しい激突って…あることはありますよ。あるご家庭でこの間、息子が絶対に物を言わず、息子にちぇって舌打ちされてってことも(笑)。

―― エネルギーを正常に発散させるという経験があるから、反抗期も押さえつけるのではなく、受け止めるという心が親もあるんでしょうね。

相良  確かに当惑はしますけどね。新しい形のエネルギーの出し方ですね。

(文・構成/日経DUAL 加藤京子 写真/鈴木愛子)

相良敦子先生 故・相良敦子先生。佐賀県生まれ。九州大学大学院教育学研究科博士課程修了。滋賀大学教育学部教授、清泉女学院大学教授、エリザベト音楽大学教授、長崎純心大学大学院教授、日本カトリック教育学会全国理事、日本モンテッソーリ協会(学会)理事を歴任。1960年代、フランスで、モンテッソーリ教育を原理とした手法Enseignement Personnalisé et Communautaireを学ぶ。1985年初版の『ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』(講談社)は現在62刷を売り上げるロングセラー。『お母さんの「敏感期」』(文春文庫)、『幼児期には2度チャンスがある~復活する子どもたち』(講談社)、『モンテッソーリ教育を受けた子どもたち~幼児の経験と脳』(河出書房新社)など著書多数。享年79歳。