一度にあれこれ要求しないで、丁寧にゆっくり、して見せる

―― DUALのお手伝い特集のときに、先生のご本を読ませていただいて、当時私の子どもは小4と小2でこうした小さい子たちではないんですが、まず色々なことを一度に要求しないで1つのことをゆっくり教えるということを実験してみたんです。その実験の一つがトイレのスリッパをそろえてから出てほしいということ。何度言っても子どもたちはすっきりした後、早く家族の中に入りたいからバタバタと歩いているような形で出てきてしまう。私は毎回「ちゃんとやって」という言葉で伝えても、子どもたちは「ちゃんとやる」ということが具体的に分からなかったんですね。それで子どもに「見てて」って言って、「ママの『ちゃんとやって』はこういうことでした」と、一連の動作をだまってゆっくりとしながら見せたんです。そうしたら1回のお手本で、二人とも見事に直って。私はなんという遠回りをしてきたのか、お手本をしっかりと見せれば良かっただけなんだ、と驚きました。

相良 学校の先生をしていた小学生の子のお母さまが、保育園はできるだけ近いところがいいと近所の園に預けたら、子どもが騒々しくやんちゃになって心配になり、仕事をやめて子育てに専念したんですって。それでもやんちゃぶりが収まらず、「仕事を辞めてまで子育てに関わっているのに、もうっ!」てますます腹が立って。それで、モンテッソーリ教育のお勉強をしたそうです。ある日、その坊やががちゃがちゃと乱暴な牛乳の注ぎ方をしていたので、お母さんがゆっくりとお手本を見せた。すると、「ふーん、そうするの。僕知らなかった」って。それからはちゃんと注いで飲むようになって、お母さんはその経験にヒントを得て、全部おうちのことをゆっくりして見せるようにしたんです。

―― ゆっくりと因数分解みたいに要素を分けて、ごちゃっと「あれとこれをやっておきなさい」ではなく、この要素は……と1つずつ丁寧に見せてあげれば、小学生のお子さんでもいけますか?

相良 それは、どうでしょう。こうした例もあります。ある共働きのお母さんが仕事で夜遅くに帰ってくると、パパと小学2年生と4歳の2人の娘が一緒に花火をしていたんです。片付けてお部屋に入ろうと言ったら、二人はすごく嫌な顔をした。それで、「ママね、今日バケツのつかみ方を教えていただいたのよ」ってゆっくりしてやったら、4歳の子どもの目がカチッとお母さんの手にロックしたって。先ほど、羽生さんは「近道」とおっしゃったけれど、そのお母さんは「その瞬間に子どもに教える術を見た気がした」と言っていましたね。それでね、4歳の娘にゆっくり行動を分解しながらしてみせると、しっかりと見ることができたのに、小学2年生のお姉ちゃんは敏感期を過ぎているからあまり見ない。やっぱり小学生のお子さんの場合は、言葉を添えることが若干必要になってきますね。『モンテッソーリの発見』(エンデルレ書店)という本にはっきり書いてありますが、5歳になると正確に見る感性が消えていくんです。随意筋肉運動の調整期(「こうしたい」と思った自分の意志通りに実現できるようになりたい時期)は4~5歳くらいで消えてしまう。だから、5歳を過ぎると曖昧でも平気でやってしまうんです。