「ひとりでできた!」達成感は、子どもが変わるほどの力がある

―― モンテッソーリ教育の「豆選び」というお仕事で、数種類の豆を同じ種類ごとに分けて集める作業を1週間毎日繰り返し続けるBちゃんを見て不安になり、「そろそろ別のことをさせてください」と先生に文句を言うお母さんの例もありました。でも、いつもはひ弱なタイプのBちゃんがこのときだけはイキイキとしている様子に、先生はもう少し待ってみようと様子を見ていたら、Bちゃんの態度に変化が見られ、2週間を過ぎたある日すっきりとした顔をしてそのお仕事を自らやめた。「豆選び」の集中を経て、ひ弱だった性格が活発に変わり、気づけばチックも直っていた……。このように、わが子が1つのことに集中していることに不安を感じ、親が他のことをさせようということもよくありますね。

相良 以前、近所の方からお聞きしたのですが、お嬢様が園から帰るときにお豆を手放しがたくて家に持って帰った。それで、家でも「豆選び」のお仕事を続けていると、パパが「こんな食べるもので遊んじゃいけません!」って言って全部捨ててしまったそうなんです。パパは後からこの本を読んで、大慌てだったんですって(笑)。

―― 子どもの発達上の大切な時間を邪魔してしまった例ですね(笑)。そうした知識がないと大人が心配になるくらいに、子どもは同じことを何度も繰り返すことがよくあります。好きな活動を気が済むまで集中してやり遂げることがとても大事なんですね。

相良 幼児期の子どもは、知性や意思を働かせて手や体を使う機会に出合うと、心と体を総動員しながら集中して何度も繰り返し、気が済むまでやり通したら自分からやめます。それを発見できたのは、モンテッソーリが科学者だったから。

―― マリア・モンテッソーリは、イタリア初の女性医学博士(1870年生まれ)だったのですよね。

相良 そうなんですよ。モンテッソーリは科学者の目で子どもたちを観察し続け、「子どもは大人の力によってではなく、自分自身の力で変わる。そして、心身のエネルギーを統一できる活動を集中してやり遂げた後は、子どもは良い状態に変わる」ということを発見したんです。

―― やり遂げた後に達成感が訪れるというのも、科学者としての観察から行き着いた発見だったのでしょうか。

相良 そうですね。それも「この子の心の中に一体何が起こったの?」と、子どもたちの顔を見たときに心の奥底が開いたような顔だったとか。この視点は、まさに科学者ですよね。「一体何が起こったのですか?」と、「子どもの前でひざまずきました」というふうに彼女は著書の中で書いています。

―― 「心の奥底が開いた」ような子どもたちの表情。先生ご自身もそういった経験が何度もありましたか?

相良 そうなの! モンテッソーリ教育に関わってまもない現場の先生方も皆さん取りつかれていくのが、「子どもの顔が神々しい」ということ。これは、たくさんの方から聞きますね。活動をやり遂げた後の子どもたちの神々しさに惹かれ、力強い生命のエネルギーに満ちあふれた子どもたちとの関わりにますます心を奪われていくのです。モンテッソーリ教育が根付いていく現場では、「子どもが変わる」という事実に幾度も出合います。生命の法則に従って、自分の力を超えた偉大な力が子どもの中に働いていることを感じ、謙虚に誠意を尽くして生きる人になりますね。