引き受けた仕事に対する責任は自覚 でもどうしても無理だった

 布団をかぶって電話に出ない。部屋を暗くして居留守を使う……。昔は編集者さんが原稿を受け取りに家まで来たんですけど、「光が漏れる!」と思ってドアポストに目張りまでしていました。「空襲だ! 電気を消せ―!」って感じです。

 編集者さんには「みんなね、そんなに得意じゃないことでも仕事だと思ってちゃんとやるし、責任を取るんだよ」と諭されました。「こんなふうに逃げ出していたら、仕事が来なくなるよ」っていうこともたくさん言われました。社会人として、引き受けた仕事は責任を持ってやらなくちゃいけないというのはもちろん頭では分かっています。けれど、「こんなのプロのレベルのお話じゃない、こんなものを見せたら、そっちのほうががっかりさせる」と思うと、どうしても駄目だった。本当に迷惑な人間だと思います。

 そんな私だから、子どもに「こうあるべき」「これを絶対やりなさい」なんて言えないんです。

 今は、描きたくないものは絶対に引き受けないことにしています。逃げるような経験までしたことで、むしろ最初から「あ、これは私には向いていない」っていうのがはっきりと分かるようになりました。だから最初からお断りして、今はなるべく人に迷惑を掛けないように仕事をしています。

 私の中では、楽しくあることは人生において一番大事なことです。自分が楽しいと思えないことをやっても、人に喜ばれるとは思えないんですよね。仕事って、誰かを喜ばせることでしかない。私がマンガを描くのは読者を喜ばせるためだし、旦那が料理を作るのも、家族を喜ばせるため。料理がつらくて仕方がない人に作ってもらってもおいしくないですし、それなら無理に作らなくていいよって思っちゃう。

 子どもたちもいつか、自分が心から楽しいと思えるものを見つけてくれたらなと思います。

今月のPOMのつぶやき

 僕と子どもたちが習い事などで遅くなる日は、妻が夕飯の支度を楽しくやってくれます。でも、料理しながら片付けるのも楽しんでもらいたいです。

(取材・構成/谷口絵美)

二ノ宮知子

二ノ宮知子

1989年に漫画家デビュー。2004年に『のだめカンタービレ』で第28回講談社漫画賞少女部門を受賞。同作はドラマ化、アニメ化、映画化され、一大ブームを巻き起こした。2人の息子の「ダメママ」ぶりと夫・POMさんの「スーパーパパ」ぶりを描いたコミックエッセー『おにぎり通信』(集英社)は全3巻が発売中。現在は月刊Kiss(講談社)で『七つ屋志のぶの宝石匣』を連載している(単行本は既刊8巻。連載は手の病気の治療のためお休み中)。