日経DUALの創刊から4年。これまでウェブでよく読まれた人気記事や注目連載陣によるコラムを全120ページにたっぷりと詰め込んだリアルマガジン『日経DUAL Special!』が登場しました! 子どもの教育、英語、学力、受験、お金、家事代行、保育園、学童、しつけ……など、子育て中のママ・パパが気になるテーマについて、それぞれの分野の専門家や企業に取材した骨太な記事ばかりです。
 DUAL編集長の羽生、『日経DUAL Special!』をまとめた編集・片野が、各特集の担当記者と一緒に特集の見どころを振り返るシリーズ第2回は「ワンオペ育児からの脱出法」特集です。育児や家事を一人で背負う、いわゆる「ワンオペ育児」の実態や解決策を多角的に掘り下げた特集を見ていきましょう。

■第1回の記事
“教えない”早期教育を脳科学者らが勧める理由

■第3回の記事
子どもの英語教育どうする?スクール選び、親の関わり

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変えたいと思っているが、変わらないと思う

羽生(以下、羽) サイトに掲載したとき、この「ワンオペ育児からの脱出法」特集は、読者の反響がとても大きかったのですよね。予想通りというか…。

片野(以下、片) 特集は、まずは実態をつかもうと読者アンケートを取るところからスタートしましたね。491人(95.5%が女性)からの回答一つ一つを読んで、砂山記者はどんな気持ちになりましたか?

砂山(以下、砂) 「7割がワンオペ育児に悩んでいる」というアンケート結果は、「ワンオペ育児」が一種のトレンドワードになっている昨今、そこまで意外ではありませんでした。でも、なんとそのうち7割以上が、「変えたいと思っているが、変わらないと思っている」という諦めの境地に…

 驚きとともにつらい気持ちになりますね。

 夫のキャリアやお給料が大切、という人もいるかもしれませんが、個人的には、共働きの夫婦にとって、育児・家事の分担はお互いの信頼関係を保ったり高めたりするために一番重要なことではないかと思っていて。育児・家事の分担を諦めるということは、良い夫婦関係でいることを諦めることにもつながるのではないか、と感じてしまいました。

 育児・家事の分担比率を変えようとパートナーと話し合ったことのある人に聞いた「パートナーに伝えた内容と、それに対する反応」への回答の数々…。読んでいて絶句します。

 もう怒りさえ覚えました。例えばですね! 「俺だって仕事してるんだから。俺が頼んで働いてもらっているわけじゃないから」と夫に心無い言葉を言われたり、「お袋はやっていた」と専業主婦の義母と比較されたり、逆ギレされたり…。一人、二人ではなく、大勢(特に妻)が、このようなモラハラともいえる配偶者の言葉に傷つけられ、その後、諦めている様子が目に浮かび、どうすればいいのだろう、と真剣に考えてしまいました。

 読者アンケート「パートナーに伝えた内容と、それに対する反応」(一部)

 ■【伝えた内容】ゴミ出しや風呂掃除をやってほしい。
→【反応】俺だって仕事してるんだから。俺が頼んで働いてもらってるわけじゃないから。

 ■【伝えた内容】もう少し家事をしてほしいということと、子どもの世話をしてほしいということをお願いした。
→【反応】俺が家事をするなら俺の会社の近くに引っ越せ、家事・育児のせいで俺の給料が下がっても文句言うな!と、話し合いにならなかった。

 ■【伝えた内容】保育園時代、お迎え~夜間の家事・育児を基本自分がやることになっており、週2日は分担してもらいたいと言った。
→【反応】「自分が勝手に遊ぶ時間が欲しいだけだろう」的なことを言われた。非常に心外であり、腹が立った。

 ■【伝えた内容】自分のこともまともにできない夫なので、せめて自分の面倒を見るくらいできないか話し合った。
→【反応】「頑張ってする」との言葉だが、実際は1日もできてない。揚げ句、「お袋はやっていた」と専業主婦の義母と比較される。

 ■【伝えた内容】家事・育児のタスクを紙に書き出して、分担を話し合った。この中からできることを1つ、2つ選んでほしいと伝えた。
→【反応】俺ができることはほとんどないやん、ってキレられた。

(『日経DUAL Special!』P69)

 こうしたアンケートの結果を、共働き子育てを研究対象とするジャーナリストの治部れんげさんと明治大学の藤田結子教授にぶつけてみたのですよね。「なぜ、ワンオペ育児はなくならないのか」ということを分析してもらいました。

 「保育園からお熱でお迎え要請があって、夫に頼んでも『無理』の一言で、仕方なく私(妻)が駆け付けた」とか、「お皿やお風呂、洗ってって言っても洗ってくれないから、結局いつも私が…」ということ、よくありますよね。でも、もし保育園からの電話に母親が出なかったら、園は次に父親に電話をするでしょうが、電話を受けた父親が焦って母親に連絡をしたとき、「無理、あなたが行って。私は仕事」とだけ伝えて一切無視したとしたら? 父親はどうしたらいいか考えて、迎えに行くかもしれませんよね。

 つまり、育児・家事をしない夫がやっていることと同じことを、もし妻がやってみたらどうなるかと?

 そうです。治部さんと藤田さんはそれを、どちらがどこまで我慢できるかの「チキンレース」と表現していました。解決策としては「妻がやらない」しかない、と。

 「皿洗いは夫の担当と決めたので、どれだけ長く皿を放置してあっても汚くて早く洗いたいとウズウズしても我慢! そうしたら、あるタイミングで夫が洗った」という実例を挙げて説明してくれましたね。

 でも通常は、女性のほうが先に手を出してしまうんですね。子どもに対しても女性は「愛情規範」が強いので「子どものため」と、どうしてもやってしまうことが多いんだそうです。さらに、例えば前述の園からの電話のケースで、保育園に誰も迎えに行かなかったらママが責められることが多かったり、逆に職場でワーママの残業・出張には配慮してくれるけど、パパはあまり配慮されないといった現実も。根強いジェンダー規範が影響しているんだなぁと考えさせられました

藤田/ 母親のゲートキーピング説というのがあります。妻から育児を頼まれると、夫の育児分担は増える――って当たり前の話なんですけれど、ちゃんと研究でも証明されているので、交渉を面倒臭がらず、諦めないで言い続ける。そうしたら多少でも夫の関わりは増えると思います。あとは、外部のサービスや祖父母、近所の人など誰かの手を借りるのもいいと思います。

治部/ いったん育児や家事を夫に任せたら、口を出さない。自分の仕事に当てはめると分かると思うんですけど、途中であんまり細かく言われたら、やはり嫌ですよね。主に女性側が、その許容範囲を緩くすることで解決することもあると思います。
 あとは、本当にその人と一緒にいたいのか、一度じっくり考えたほうがいいですね。お金の問題で「この人と一緒にいる」という結論でも、「そうはいってもこの人が好きなんだ、ワンオペでもいいんだ!」でもいいと思うんです。何となく流されてブツブツ言っているよりは、自分で決めて、選択したほうがいい。
 ただ、「やはり嫌だ!」と思えば、交渉なりけんかなりプチ家出なり、様々な方法を試すといい。

(『日経DUAL Special!』P71)

育児・家事の分担比率を変えたいが諦めている女性が多い
育児・家事の分担比率を変えたいが諦めている女性が多い

お互いに利益を得られる交渉であることが大事

 さあ、そして今回の特集の見どころの一つは、交渉学の専門家に入ってもらい、ワンオペ家庭の改善策を探る実録ルポでした。

 交渉学が専門の小早川優子さんはMBAホルダーで外資系企業などでのキャリアも長い、3児のママ。上司や家族との交渉ノウハウを多くもっています。特集では実際にワンオペ育児に悩む女性2人に夫への具体的な行動、声がけなどをアドバイスしてもらいました。夫の性格や仕事内容、仕事の忙しさ、口癖といった夫に関する情報、夫婦の関係、どういったところがワンオペ育児で、何が不満なのか、どう変えたいのか…ということを詳しくヒアリングしたうえでです。

 お一人は、小早川さんの「ウィンウィン(Win-Win)交渉術」を試したところ、3週間で夫に変化が見られたんですよね。驚きました。

小早川/ 「ウィンウィン交渉術(W-W交渉)」は、相手を負かすための「ウィンルーズ(W-L交渉)ではなく、お互いに利益を得られる交渉です。最も大事なものは「準備」。まずは要求を見つめ直します。自分自身がぶれると、交渉もぶれてしまい、たとえ交渉がうまくいっても幸せになれません。相手に自分が味方だと思ってもらうことも大切です。結局、人間の意思決定は感情に左右されます。詩織さん、まずは2週間「あなたと結婚してよかった」と夫さんに言い続けてください。

詩織/ え、無理(絶句)。

小早川/ あくまでもツールですから本心でなくてもいいんです。この言葉を言い続けることによって、相手にとって自分は敵ではないと伝えることができ、信頼関係を構築できます。

詩織/ 携帯メールでもいいですか。

(『日経DUAL Special!』P72~73)

 ここで実践してもらった「究極の交渉ツール」は、手法としては単純なものなのですが、精神的なハードルが高い人もいるかも。それを「え、無理」と言いながらも実践してくれた女性に感謝です。ちなみに、3週間は期間として短過ぎるそうです。小早川さんは「長年培ってきた関係性はそう簡単には変わらないから、本当はもっと長い時間をかけて取り組んでほしい」と言っていました。

 なるほど。粘り強く夫に働きかけることで、少しずつワンオペ育児状態から抜け出すということですね。

 夫婦関係の基本として、「お互いに利益を得られる交渉であることが大事」という小早川さんの教えは覚えておきたいと思いました。

 「交渉成立のために最も大事なのは準備」だという言葉に、わが身を振り返って反省をしました。イラッとして何も準備せずに相手に自分の主張をしても、ケンカになるのは当然だな、と。改めて気付けてよかったです。

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(イメージカット/鈴木愛子)