「何のためにやるの?」という質問を習慣に

 それでは、パッションを感じられる習い事が見つかったあとは、どうしたらいいのでしょう。ボークさんが心がけてきたのは、バレエを習い始めたスカイさんに「何のためにやるの?」という質問を繰り返すことでした。

 「目的意識を明確にさせるためです。こうした質問を繰り返されると、子どもは自分から目的を意識するようになります。それも上手になりたいといった自己実現の目的から、次第にもっと大きな目的を持てるようになってきます。社会の一員としての自覚が出てくるのです。娘が出した答えは『キラキラしたきれいな舞台を観てもらって、みんなに楽しい気分になってもらう』というものでした。自分一人のためじゃなくもっと大きな何かのために、そんな大きなビジョンが描けるようになると、さらなる努力ができるようになるといった好循環が生まれ、大きな成長につながっていきます」

その習い事で将来プロになれるか迷ったらどうすべき?

 では、子どもが習い事に打ち込むあまり、勉強やほかの事に手が付かないほどになってしまったらどうすればいいのでしょうか。いくらパッションを持てる対象だとしても、その習い事を突き詰めたら必ず、将来プロになれ、食べていけるとは限りません。

 「私も、それはもちろん考えました。バレエはプロになってお給料をもらうには非常に狭き門。でも、『バレエでは食べていけないから、止めて勉強しなさい』と言ってしまうと、娘の中にあるパッションを殺してしまうことになります。それでは娘は毎日何を楽しみに生きていくのでしょうか? そこで『パッションと共に生きていくには、どうしたらいいと思う?』と娘と話し合いました。『勉強をして自分の幅を広げておくといいと思う』という結論に至り、娘は自分の判断で、勉強にも力を入れることにしました。バレエの仲間は、高校を辞めて一日中バレエの学校で練習するようになり、娘もバレエの先生から『早く高校を辞めなさい』と言われましたが、娘は高校を辞めず、学業との両立を目指しました」

 ハードな練習と毎日の勉強を両立させるためには、夜はしっかり寝ないと心身が持ちません。「娘は自然と、自分で時間配分を考えるようになり、バレエから帰宅したあと何時まで勉強して、何時までに寝るかを自分で考え、実践するようになりました。こうした計画性や実行能力が身に着いたのも、パッションがあったからこそ。パッションは問題解決の原動力なのです」

 「何もうちの娘が特別なわけじゃないんです」と、ボークさん。「本人の心の底から湧き上がる“パッション”こそが、子どもの心を動かし、子どもを大きく成長させる原動力になると知ってほしい。お子さんが小さい時は、ぜひ習い事でいろいろチャレンジしながら、パッションの芽を育てていただきたいと思います」

ボークさんファミリー。真ん中が重子さんで右が娘のスカイさん、左が夫のティムさん
ボークさんファミリー。真ん中が重子さんで右が娘のスカイさん、左が夫のティムさん

(取材・文/西山美紀 写真/ボークさん提供)

ボーク重子さん
ボーク重子さん ICF認定ライフコーチ、アートコンサルタント。福島県出身。米・ワシントンDC在住。30歳の誕生日前に渡英、ロンドンにある美術系大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、フランス語の勉強のために訪れた南仏の語学学校で、米国人である現在の夫と出会う。1998年渡米、出産。子育てと並行して自身のキャリアも積み上げ、2004年に念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年にワシントニアン誌上でオバマ前大統領(当時は上院議員)と共に「ワシントンの美しい25人」の一人として紹介される。また、一人娘スカイは2017年「全米最優秀女子高生」コンテストで優勝。現在は全米・日本各地で子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについての講演会やワークショップを展開中。著書に『心の強い幸せな子になる0~10歳の家庭教育「非認知能力」の育て方』(小学館)、『「全米最優秀女子高生」を育てた教育法 世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)等。