妊娠初期から学齢まで、切れ目のない支援を

高野 また、保健師や助産師の方たちが、区内で生まれる子ども全員の状況をできるだけ把握しようと取り組んでいます。「ゆりかご・としま事業」として、生まれる前の妊婦さんから様々な相談に乗り、出産後も面談を2回実施しています。2回目は絵本などのプレゼントを用意して、庁舎内の子育てインフォメーションなどに来てもらうように誘導しています。現時点で捕捉率は90%以上と、非常に高くなっています。「妊娠した時期から学齢まで、なるべく切れ目のないように」ということが支援の方針です

 豊島区は民間の方たちもとてもパワーがあって、子どもたちに食事を無料または安価で提供する「子ども食堂」もどんどん増えています。区はネットワークの事務局として、みなさんの取り組みがスムーズに進むよう裏方としてサポートしています。事情があって塾に行けない子どもの学習支援も民間の方が行っていますが、こちらは社会福祉協議会に事務局を担ってもらっています。

 また一人親の世帯の学習支援については、区の担当者がNPOと一緒に自宅まで訪ねています。そこで色々な状況が分かり、別の機関につなげることもできますから。

―― 児童相談所の開設に向けても意欲的に進めているそうですね。

高野 児童虐待は全国的に大きな問題になっていますが、豊島区でも早くから問題意識を強く持っていました。相談件数をみたときに、豊島区は都内の平均よりやや高かったんです。1年に約700件ですから、1日に2件は何かしらの対応をしていることになります。

 これまでは児童福祉法の規定で児童相談所は都が管轄し、区では設置することができませんでした。そのため区では子ども家庭支援センターが窓口となって対応していましたが、現場に話を聞くと、都の児童相談所があまりにも忙し過ぎて、うまく連携できないことがあるというのです。

 相談所を区に移管してほしいという話し合いを都と続ける中、昨年法律が改正され、やっと区で設置することができるようになりました。既に場所も決まって建物の設計に入っており、2022年1月をめどに開設準備を進めています。他の区でも設置の動きが広がっていますが、うちは比較的早く開設できそうです。

 あとは、肝心なのが職員です。これまで支援センターがやっていたことは、あくまでお母さんたちに寄り添って一緒に考えていきましょうというスタンスでしたが、児童相談所ではそれだけでは解決しないケースを扱うことになります。時には警察が介入したり、親と子を引き離したりしなくてはいけないハードな業務です。そのため都に毎年人を派遣して、相談所の実務を学んでもらっています。

 ゆりかご・としま事業から保育所、子育てひろば、学童、そして児童相談所まで。これらを全部やることで初めて、豊島区の子どもたちすべての安心・安全・子育ての支援が完結するという思いでいます。

(取材・文/谷口絵美 撮影/関口達朗)