日経DUALと日本経済新聞社は、「自治体の子育て支援に関する調査」を共同で実施しました。その結果をもとに「子育てしながら働きやすい都市」をDUAL・新聞独自の指標でランキングしました。

 2017年度の総合1位に輝いたのは、東京都豊島区。巨大ターミナルの池袋駅を有する人気エリアですが、3年前に区の未来を否定するまさかの衝撃予測が突き付けられた街でもあります。1999年から長きにわたって区政を担ってきた高野之夫(ゆきお)区長に、起死回生の道のりについてインタビューしました。2回に分けてお届けします。

【共働き子育てしやすい街ランキング特集】
第1回 共働き子育てしやすい街2017 総合ランキング
第2回 自治体調査 待機児童ゼロ、達成可能は5割どまり
第3回 共働き子育てしやすい街2017 上位50自治体は
第4回 共働き子育てしやすい街 全国編詳細リポート
第5回 豊島区長 “区が消えてしまう”ショックからの復活 ←今回はココ!
第6回 豊島区長 豊島区の子どもたちは、私たちが守る
第7回 松戸市長 惜しみない子育て支援は将来への投資
第8回 松戸市長 子どもは社会全体で育てる責務がある
関連 「共働き子育てしやすい企業&街2017」表彰式
関連 「共働き子育てしやすい企業&街2017」シンポジウム

高野之夫豊島区長。豊島区役所にて
高野之夫豊島区長。豊島区役所にて

23区で唯一「消滅可能性都市」にリストアップ

日経DUAL編集部(以下、――) 今回、豊島区が「共働き子育てしやすい街ランキング2017」の総合1位に選ばれました。まずは感想をお聞かせください。

高野之夫区長(以下、敬称略) 豊島区ではこの3年間、街の将来像を明確に作り上げることを目標に、職員や区民が一体となって街づくりを進めてきました。その目玉に掲げたのが「女性にやさしいまちづくり」です。安心・安全で、子育てしやすい環境を徹底してつくる。その中で国基準での待機児童ゼロも達成しました。今回、私たちの挑戦をこのような形で評価していただき、大変うれしく思います。

―― 3年前の2014年、豊島区は民間研究機関の日本創成会議から、東京23区で唯一「消滅可能性都市」にリストアップされました。そのことが取り組みのきっかけになったのでしょうか。

高野 まさにそうです。あれは本当に大きな衝撃でした。

 豊島区は「日本一の高密都市」です。人がひしめきあって住んでいて、川もなければ海も山もない。ついでにお金もありません(苦笑)。でも交通の便は非常にいいし、住みたい街ランキングの上位に入るくらい人気もあるんです。子育てや文化など、あらゆる面でいい街づくりが着実に進んでいると、みんなが思っていました。

 そんな矢先に、消滅可能性都市として全国に名がとどろいてしまった。2040年には20~39歳の女性が半減すると推計されたんです。そのショックたるや、今思い出してもすさまじいものでした。それは私や職員だけでなく区民も同じだったようで、「豊島区、なくなっちゃうんですか?」といった不安の声が多く寄せられました。

 これから30年後、50年後、人口がどんどん減少に向かっていくことの危機感は、日本全体に共通するものです。豊島区はその代表都市に選ばれたんだと思って、徹底的に挑戦してみようと考えました。消滅可能性都市と指摘されたことを重く受け止め、そこから反転攻勢をかけたのです。

 まず、若い女性が減ってしまうということは、女性の皆さんの声が豊島区の街づくりに生かされていないということだと考えました。そこで「女性にやさしいまちづくり担当課長」というポジションを設け、民間から人材を公募。さらに区民の思いに耳を傾けようと、「としまF1会議」や「としま100人女子会」など、女性を中心とした会をたくさん作って、6カ月の間に結論を出してほしいとお願いしました。若い女性が少なくなるといったデータもどんどん開示して問題意識を共有し、どんな街をつくればいいのか、提案していただきました。それを生かして必要な対策をまとめていったのです。

<次のページからの内容>
●待機児童対策は徹底的にやれと指示
●区民と一体になって進めた街づくり
●園庭の代わりに一般の公園を整備
●区役所や都税事務所にも保育所を開設
●消滅可能性都市のピンチをチャンスに