大田区の歯科医院で30年以上にわたり子どもたちの歯科診療を行ってきた倉治ななえ先生に、歯並びを良くする方法をお聞きするこの連載。最終回となる今回は、歯並びの土台を育てる方法について伺いました。
アゴが細くて顔が小さいほうがきれいといわれますが、それはほんとうでしょうか。顔が小さいことと、アゴの骨が細い=狭いことはイコール? 実際には、アゴの骨が狭いと歯が並ぶスペースが足りなくて、歯並びは悪くなってしまいます。人気のタレントさんの歯並びから、ほんとうのところを見てみましょう。

「アゴが細いほうがきれい」のウソ

  実は、20年ほど前に、講演会や取材の中でしばしば私はある予言をしていました。4人のタレントさんの名前を挙げて、この方たちは必ず成功する、20年後に大物タレントになっていると、お母さまたちや記者さんに力説していたのです。あれから、20年。当時、私の話を聞いてくださった皆さんと答え合わせをする時期になりました。

 その4人とは、後藤久美子さん、宮沢りえさん、内田有紀さん、えなりかずきさんです。それぞれ、当時から人気はありましたが、約20年後の今現在も各方面で大活躍しています。この4人に共通していること、それは当時から、歯並びがきれいであったということです

 アゴが細いほうが美人、イケメンという流行のようなものがありますが、そこには少し誤解があります。確かに、こちらの4人は顔は小さいですが、でもアゴが細い輪郭というのとは違います。むしろ、歯を支えているアゴの骨(=歯槽骨(しそうこつ))が、美しくしっかりとしているのです

 発達したアゴというと、エラが張ったような、原始人の顔のような骨格を想像するかもしれませんが、そうではありません。この連載を通して、アゴの骨、と言っていたのは、具体的には歯が直接のっている「歯槽骨」のことでした。歯槽骨とは、歯が生えている土台となる部分の骨のことです。

 永久歯がすべて生えそろったときに、デコボコのないきれいな歯並びとなるためには、歯がしかるべき場所にまっすぐ生えるため、歯を支える歯槽骨が十分に発育する必要があります。よく発育した歯槽骨の上にのった理想形が図の左、U字型の歯並びです

図の出典:『歯並びのよい子に育てるために 子育て歯科医からお母さんへ』倉治ななえ著/わかば出版
図の出典:『歯並びのよい子に育てるために 子育て歯科医からお母さんへ』倉治ななえ著/わかば出版

 逆に、歯並びが悪くなりやすい、細い歯槽骨は、かむことが不足していたり、指しゃぶりや舌を出す癖などが原因で、不自然なV字になることが知られています。これが、細いアゴの骨のイメージです。V字型とU字型のラインの長さを比べると、VのほうがUより距離が短く、永久歯が並ぶためのスペースが不足して、結果的に歯並びやかみ合わせが悪くなることが多いのです(図右参照)。こうした歯並びでは、美しい横顔の基準といわれるEライン(下図参照)になりません。Eラインは、横顔の鼻の先とおとがいの先を結んだ線から唇の先が出ないことが条件ですが(子どもでは上唇は線から少し出ていてもOK)、このV字型では、唇はその線から多く外にはみ出す形になります。

鼻の先とあごの先を結んだ線(Eライン)に対して、上唇は線のやや内側に、下唇はほぼライン上にある。図の出典:『歯並びのよい子に育てるために 子育て歯科医からお母さんへ』倉治ななえ著/わかば出版
鼻の先とあごの先を結んだ線(Eライン)に対して、上唇は線のやや内側に、下唇はほぼライン上にある。図の出典:『歯並びのよい子に育てるために 子育て歯科医からお母さんへ』倉治ななえ著/わかば出版

 これを見てわかるように、歯が適正な間隔で並んでいる状態におさまるためには、あごの骨、厳密には歯槽骨がきれいに発達していることが大切です。