歯並びは生活習慣でも変えられる

 「日本の子どもに「少歯化」警報 歯並びはどうなる?」でお話したように述べたように、不正咬合、いわゆる噛み合わせの悪い状態には、6つの代表的なパターンがあります。

 このうち、成長が終了するまで長期にわたり様子を見たいのが反対咬合(受け口)。骨格の遺伝による場合があるので、早くから矯正しても身長が伸びるにつれまた受け口になってしまうことが多くあります。ただ、親や親せきに受け口の人がいない場合は、奥歯のむし歯が原因のことも。奥歯がむし歯になることで、噛み合わせの高さが合わなくなり、アゴをスライドさせて噛むようになってしまった結果、受け口になっているというケースがあります。実際に、むし歯を治し、乳歯冠(銀色のクラウン)をかぶせて高さを調整したことによって、受け口が治ってきたケースもあります。

 交叉咬合(クロスバイト)の場合は、姿勢が問題であることが多くあります。あるお子さんは、テレビを見る時にいつも、右に体を傾けて頬杖をつくようにしているようなので、「テレビを見る時は、まっすぐの姿勢にしようね」と話し、ママにも「いい姿勢でいたら、どんどん褒めてあげてくださいね」と伝えました。1ヶ月半ほどしたら、歯の正中線(上下の前歯の間の線)が合うようになり、口角の高さも左右がそろいました。

 叢生(乱杭歯)はアゴのサイズが小さい、あるいは永久歯が大きい場合、さらにはその両者に起因して起こりやすい不正咬合です。早期治療では、あごの骨を拡大する装置がよく使われます。拡大してもさらにスペースが不足する場合や、永久歯になってから矯正する場合などでは、上下左右の小臼歯4本を抜歯して歯のスペースを確保して矯正することも多いでしょう。

 乳歯時代に大切なのは、アゴの骨のサイズが大きくなるように育てることです。そのためにも、姿勢をよくしてたくさん体を動かすことが必要です。あるお子さんは、叢生(乱杭歯)でしたが、小学校低学年でスポーツチームに入ってから、コーチに姿勢をよくするように指導されて、それまでできなかった「まっすぐ立つ」ことや中腰の姿勢も長時間できるようになりました。それと同時にアゴも成長したのか、中学生になるころには叢生がほどけてきて、デコボコが前ほど目立たなくなってきたのです。これは、身体を正しい位置で支える全身の筋肉がきたえられ、食事中の噛む力がすべての歯と骨に均等に伝わり、アゴの骨が成長した結果だと考えられます。

舌の使い方で歯並びが変わる、オープンバイト

 歯並びが悪くなることによって、いくつもの影響があることは第1回でお話しましたが、このうちの「滑舌が悪い、発音に影響する」ということが関係しているのがオープンバイトです。上下の前歯がかみ合わず、奥歯だけが噛み合った状態の不正咬合です。そして、オープンバイトだから発音がおかしい、というよりも、発音がおかしくなるクセを持っているからオープンバイトになる、とも言い換えられます。

 お子さんの様子を見ていて、こんなことはありませんか?

●いつも口をあけている、よく舌を出している
●ものを飲み込む時に舌が見える、スムーズに飲み込めない
●さ行の発音の時に、舌を噛むなクセがあり、thの発音に聞こえる
●口を閉じてごらんというと、上唇がめくれて無力。それをカバーするように下唇のみで閉じようとするのでおとがい(下あご)に「うめぼし」と呼ばれるしわが寄る

 こうしたことは、ツバやものを飲み込むとき、舌を上下の前歯のあいだに挟みこむ「舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)」などがある場合が多く、その結果、オープンバイトになりやすくなるのです。

 これらを治す特別な訓練法があります。MFT(マイオ・ファンクショナル・セラピー/口腔筋機能訓練療法)と呼ばれる、口周りの筋肉や舌の機能訓練療法です。もっとも基本的な方法はいつも歯と歯のあいだに挟んでいる舌先を、上あごの前歯の裏側よりさらに奥、英語の「L」を発音するときのルの位置に当てること。この位置を「スポット」と名付け、舌の先が常にそこに当てるように意識させます。舌の筋肉を鍛えることで歯並びも治していくというわけです。MFTは、矯正の専門医では広く行われている療法です。ぜひ相談してみてください。