歯列の「早期治療」は、くせをとり除いたりアゴを広げるなど骨格の土台づくりが中心

 歯並びの早期治療では、子どもが健康になろうとする成長・発育の力をフルに活用します。ですから早期治療の矯正装置は、一歯ずつ歯を動かすというよりもアゴの骨を広げたり、前後に成長させるなど骨格改善を促すものが多いのです。同時に、口を閉じて鼻呼吸をする、指しゃぶりなどの悪いくせを直す、舌の正しい使い方を学ぶ、正しい姿勢でよく噛んで食べるなどの生活習慣を身につけると、歯並びや噛み合せもどんどんよくなっていきます。まずはこうした根本的なことを直していきましょう。

 早期治療は成長段階によって3つのステージに分かれています。それぞれの時期にする治療のおおまかな内容を説明しましょう。

(1)2歳半~6歳ごろ
乳歯が生えそろってから6歳臼歯が生えてくるまで
●生活指導やアゴの骨格を改善できる時期

 矯正治療に子ども自身がやる気になれる年齢は、個人差はありますが、だいたい年中くらいのころから。それより早くから始めても、長続きしないことがほとんどです。この時期の矯正治療は「上あごの発達を促進」といった骨格改善が中心で、特に遺伝性の反対咬合、指しゃぶりのくせによる上顎前突、交叉咬合、開咬(オープンバイト)などで診断によっては、この時期から矯正を始めます。

(2)6~9歳ごろ
6歳臼歯が生えてきてから永久歯の前歯上下4本が生えるまで
●永久歯の前歯上下4本の矯正治療が可能

 永久歯の前歯が上4本下4本生えたら、その歯がデコボコになっていないか、出っ歯になっていないかをチェックしましょう。もしも、「ちょっと気になる」と感じたら、矯正治療を検討してください。簡単な装置を短期間使って、問題のある歯並びやかみ合わせだけを治す場合もあります。歯並び・噛み合わせが悪くなっている原因が、指しゃぶりや舌の使い方のくせなどによる場合は、悪いくせを取り除く治療や、唇や舌を正しく使うためのトレーニングも必要に応じて行います。

(3)9~11歳ごろ
奥歯が乳歯から永久歯に生え変わる時期
●永久歯が生えるタイミングを利用して治療
●歯を抜いて治療するかどうかを判断する時期

 乳歯の奥歯や犬歯が次々と抜けて、永久歯に生え代わる時期に、乳歯と永久歯のサイズの差(リーウェイスペース)を利用して効率よく矯正治療ができます。生えかわるタイミングを見ての治療なので、この時になってすぐといったことではなく、前もって歯が生え代わる時期を観察する必要があります。また、多くの患者さんが気にする永久歯を抜かなければいけないかどうかは、この時期に判断することが多いのです。とはいえ、昨今の矯正治療の技術は日進月歩。永久歯になってから矯正治療を始めても、歯を抜かずにすむケースも増えていますから、あきらめずに専門医に相談してくださいね。  いずれにしても、この早期治療は、成長の様子を見守りながら行います。子どもが正しい生活習慣を身につけ、矯正装置の力を借りながら、その子が本来もっていた健康になる力が発揮されると、無理なく健康的な歯並びと噛み合わせになっていきます。ちょっと大げさかもしれませんが、成長・発育する子どもの生命力を感じる瞬間です。

矯正装置を使う本格治療はいつから始めるもの?

 こうした早期治療の期間を経て、多くの場合は「本格治療」に進むことになります。これは12歳ごろからスタート可能になります。全ての乳歯が抜けて、永久歯に生えかわり、基本的には第二大臼歯(6歳臼歯のさらに奥の歯)が生えてから。つまり、一生使う歯がそろった時点からということになります

 本格治療は基本的に、すべての歯に矯正装置(マルチブラケット)をつけ、ゆっくりと歯を動かしていきます。ケースによっては歯が移動するスペースを作るため、永久歯の上下4本を抜くこともあります。本格治療では、装置の具合を確認したり、ワイア―やゴムを変えたりする装置の調節が毎月1回くらいあり、おおむね2~3年かかると考えてください。矯正装置が外れたあとは、歯が正しい場所で安定するように保定装置を数年間使いつづけます。保定期間が終わっても、1年に一度は検診に行き、きれいな歯並びを保つ努力が必要です。

 歯列矯正と言っても、さまざまな段階があります。実際に、本格治療となると、トータルして100万円程度かかるといわれています。でも、それも装置を使っての矯正だけをして、ふだんの生活習慣や姿勢を変えなかったら、また元に戻ってしまう、ということも起こります。