「集中して自主学習をさせる最高の環境、それは囲炉裏のある古民家」と主張するのは、カリスマ家庭教師であり、教育環境設定コンサルタントでもある松永暢史さんです。2017年夏、ようやく出合えた東京都奥多摩の古民家で、松永さん自身34年ぶりとなる夏合宿を実施しました。電子機器から離れ、自然の音しか聞こえない山の奥で、太陽とともに起床し、日があるうちだけ勉強するというユニークな合宿の中で子どもたちはどう変わったのでしょうか。最終回は合宿に参加した生徒たちの姿を追いかけます。

個性豊かな中学生男子6人の合宿が始まった!

 夏合宿に参加したのは中学生6人(と途中参加の高校生1人)。内訳は、受験を控えた中3が3名、中2が2名、中1が1名。簡単にここで紹介しておこう。

・トッシー(中3)…3人兄弟の末っ子で、真面目で機転が利く。進んで手伝いをするタイプ。

・シュー(中3)…マイペースで人の邪魔をしないタイプ。他者に対して寛容で、自分より年齢が下の子どもの相手が上手。弟がいる。

・イッチー(中3)…長時間ゲームにはまり、ゲームの影響の強いアタマの状態で参加。実はアタマがよくセンスも優れるが、小5で学級崩壊があり、基礎学力がついていない。

・マハー(中2)…落ち着きがなく、空気が読めないADHDタイプ(筆者の仲間である)。学校では「問題児」とされているようだが、潜在的な知能は高い。

・アース(中2)…2日目から参加。野球部所属。自分で考えて判断することが得意ではない。

・ゴブリン(中1)…いたずら小僧で、他人の気を散らすことの名人。まさに「ゴブリン(小鬼)」

 合宿のスタートにあたり、それぞれが勉強する場所を決めた。トッシーとシュー、そしてゴブリンの3人は、囲炉裏端のダイニングテーブルを選んだ。ゴブリンは他人にちょっかいを出すガキではあるが、中3のトッシーとシューはそれに乗ることはない。この3人をまとめておくことにする。

 

 一番奥の座敷の和机には、落ち着きのない中2のマハーを隔離。その手前、中央和室縁側沿いにイッチーを置く。

 イッチーは一人で学習できないので、大学生のO先生がほぼつきっきりで学習を先に進ませる。彼は何をするのもかったるく、言い訳の習慣もついており、自分の言葉に自分で暗示をかけられているようであった。この合宿中になんとか前向きに学習する習慣を与えたいと我々は願っていた。

これはM先生主催の合宿での同じ場所の写真。奥にダイニングテーブル、手前に和机が見える
これはM先生主催の合宿での同じ場所の写真。奥にダイニングテーブル、手前に和机が見える

2日目 勉強が進まないアース、その背景には何があるのか?

 遅れて中2のアースが合宿に参加する。彼は囲炉裏端のテーブルを選んだが、ゴブリンの絶好のカモになってしまった。もともと自主学習に集中できないうえに、ゴブリンがアースの顔をじっと見つめて気を引いたり、「アメなめる?」などともちかけるのだ。

 ゴブリンの近くの席ではダメだ。「自分が最も集中できそうな場所を選べ」とアースに言うと、マハーの部屋の西向きの窓の下の書院棚を選んだ。散らかしっぱなしで次々といろいろなことをするマハーだが、人にはちょっかいを出さないのでよしとする。

 それでもアースの学習は進まない。

 そばへ行って、「連立方程式か、そんなのどんどんやって早く慣れよ」と無理矢理やらせる。「字が汚い。それでは自分でも読めない。分数を書くならもっと大きく書かないと無理だよ。そんなこと自分で判断しろよ」と言うが、この子はひとりっ子のせいか、自分で判断するということが苦手である。

 しかも、野球部に入って以来、ますますその能力が低下しているようだ。思うに野球は難しいスポーツなので、多くの選手は上からの指示に従う訓練を受ける。その結果、自主的に判断して動く能力が阻害される傾向があると思う。

 学校での勉強のさせ方も同じだ。上の者の言うことを良く聞くということを徹底するために、自主性や判断力が失われる例である