5日目 教育者の課題は、子どもの潜在的な知性をどう高めるかだ

 ときたま「虫が出た」と大声をあげるマハーだが、学校宿題も塾宿題も研究観察レポートも驚くべき集中力で終わらせてしまった。

 「自分でも信じられないくらいはかどって、することがなくなってしまった」と言うので、「何か課題作文の応募とかないの?」と聞くと、あるけど出さなくてもいいものだという。テーマは「犯罪の再犯率を下げるには」だというので、どう考えるのかを聞いてみた。

 「思うに、刑罰を軽くするか、刑務所から出て来た者を社会がケアするかのどちらかしかないじゃあないですか。アメリカでは再犯性の判断にAIを用い始めているそうですが、その基準は何なんでしょう」などと言う。

 彼の潜在的な知能はとても高いのに、学校の集団授業の中では「問題児」扱いされるのが残念でならない。この古民家の座敷では、水を得たサカナのようである。

 「じゃあ、広告代理店に勤めたとでも思って、今言ったような自分が考えることを文章化するために、まずはメモを作れ」と伝える。

 中3のイッチーは、O先生が付き添い、どんどん夏休みの宿題ワークを進めさせる。 

 今日の午後、一足先に帰ることになっている中2のアースは、マハーの集中力に気おされたのか、連立方程式の問題をそれなりに進めていた。それでもまだテンポが悪い。どうもぼけっとすることが多いようだ。炎天下で野球のせいなのか、それとも野菜などのミネラルが不足しているのか、よく分からない。心配である。しかし、川で遊ぶときは積極的で本当に活発である。体力的にも優れている。

 中1のゴブリンは、文句を言われるギリギリまで、できるだけ真面目にやろうとしないという癖があるが、集中するトッシーとシューと同じテーブルでは、ある程度やらないわけにはいかなくなる。それでも中1だからすぐにお尻がもぞもぞする。お茶を飲んだり、庭に出たりするので、「草むしりせよ」と道具を渡すとずっとやり続ける。人間の集中力とはいったい何なのだ。

 しかしこれでストレス解消。手を洗って机に戻って学習を再開する。やはり、この環境、このスペースが学習に適しているのである。彼は最下級生で上級生に可愛がられている。こういった自分のポジションを上手く築く力は一種の才能だ。高度な人間観察力が潜在していると思われる。

自然の中での学びは、5泊6日では少なすぎるのだ!

 こうして一応すべての生徒に自主学習することを習慣付けつつあるが、さらにここでもっと打ち込むと「別の次元」が現れるはずである

 しかし、それにはあと4〜5日が必要だと思う。5泊6日では調子が出たところでそれが終わってしまい、さらにその調子を続けていくとどういうことが体験できるのかということが体験できない。やはり合宿は10泊以上が望ましいことになる。2週間やれば充分であろう。ちなみに空海は3週間を修行の一括りとしていたが、現代社会では、これに大人が付き合うのは不可能だ。

 最終日朝、生徒たちはすでに学校宿題はレポートまで終わり、あとは自分の自主学習で問題集などを進めている。マハーの作文はとんでもないものが出来てしまい、「これは学校には出せない代物だ」と大笑いした。

 3時に最終おにぎりを食べてミーティングをした。

 「各人よく頑張った。自分で学習を進めるということがどういうことか分かったことだろうが、ここで得た感触を家でも発揮できるかどうかがこの合宿の成果を決定する。それをするのはキミたち自身だ」

 心中みんな「何か」を得た手応えであろう。

 しかし、私から見ると、家へ帰ってからもこれが続けられる者はその一部ではないかと思われる。学習習慣はつききっていないが、問題集の使い方はしかと伝わった気がする

 それにしてもたった5泊でも心底疲れた。協力した先生方にもこころよりお疲れさまと言いたい。

朝5時半から12時まで約6時間集中して学習した後、昼食後は15時まで自由時間。子どもたちは毎日川に行っていた
朝5時半から12時まで約6時間集中して学習した後、昼食後は15時まで自由時間。子どもたちは毎日川に行っていた

文/松永暢史、写真/前田大介、構成/神 素子