3日目 教室の「問題児」にも集中力があらわれてくる

 この日は暑かった。30度近くあり、蝉の声がかしましい。

 しかし、中3のトッシーとシューは淡々と学習をこなす。中3とその下の学年はかくも違うものである

 しかし、もう一人の中3のイッチーは、なんやかやと休む理由を口にする。人が見てないととかく周囲のものをいじったり、マンガを描いたりして勉強からそれてしまう。

 O先生が「おいオマエ今やらないと大変なことになるぞ。これじゃあ高校に進めるどころか入ってもついて行けないよ。それはマズいと思わない? やれば誰でもできることだ。やりさえすればいい」と若者アクセントで繰り返し説得して、小学上級から中3の範囲まで次々に進めさせる。わからないところはわかるまで繰り返し説明する。勉強慣れしていないので辛そうだが、これではやらないわけにはいかない。

 奥の和室のマハーにも集中力が出てきた。周囲に人がいないので、気が散るのは虫が飛び込んで来たときくらいだ。スマホもデバイスもない。もちろんテレビもない。しかたがないからか、やけに難しいパズル数学の問題集を解いたりしている。飽きると本を読んでレポートをまとめる。

 教室では明らかに「問題児」であるこの子も、こうして環境を設定してやれば自主的に勉強することができる。そもそもアタマがよい子なのでどんどん能力を伸ばすことができる。大事なのは「環境」であることを確信する。

 ゴブリンも学校課題をどんどん終わらせるが、まだガキなのでとかくその間にチョロチョロする。これも時には隣に座って、嫌がる数学問題演習などを強制的にどんどん進めさせる。が、こなしているのが学校の宿題だからなのか、ガマンして行う。

 この日のお昼は天ぷらとぶっかけうどん。四国から取り寄せた讃岐うどんを14人分茹でる。大根おろしはトッシーが、沢庵切りはゴブリンが手伝ってくれた。ゴブリンはふだん家で手伝いなどしないが、デバイスがなければ本を読むか家の手伝いをするしかない。あらためて日常の生活環境に、必要以上の暇つぶし機器が満ちあふれていることを痛感する。

 

4日目 「もう全部終わらせてしまった」という子が続出

 シューは、塾の宿題のなかなか難しい英語と数学の問題を解き進めている。

 「何か困っていることはないか?」と尋ねると、

 「えーと、この問題とこの問題の解き方がわかりません」と言う。

 「フーム、英文整序か。まず日本語のニュアンスをよく読み取りながら文法的に塊になるものを考える。aがあればその後ろに名詞句が来ることがわかる。過去なのに動詞の原形があるのはその直前に助動詞があるからだ。前置詞inの後も、the countryに決まる。enough の前が形容詞でその後はto不定詞だ。こう考えれば、構成要素を3つにすることができる。後は主語を決定すれば、すぐに構成できるはずだ」

 数学の質問も同様。やや難しいことになるとすぐに遠慮なく尋ねてくるが、こちらが求めるのは自分で解説を読んで解決できるようになることである。伸び盛りの彼に必要なのはその能力だ。だからこうした場合は、例題解説を一緒に読んでやり、その上で一問くらい付き合って、答えの出し方を確認した上で何問か問題を解いてもらうことにする。

 でもこのような指導が可能ということは、彼が1学期以降順調に学力を伸ばしていることを示している。

 「がんばれよ。ここのところを乗り切ると一枚上の次元に至れる。バッチリ演習して苦手な問題も慣れて何ともないと思えるようにせよ」と言う。

 すでに読書感想文以外の学校宿題を全て終わらせたゴブリン君には、ハヤカワ文庫でロアルド・ダールの短編集『あなたに似た人』を渡すと、これを読みふける。

囲炉裏のある古民家での合宿ではスマホもテレビもない
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