2014年の連載開始から64回に亘り、教育社会学者の舞田先生が統計データを使って共働き家庭にまつわる課題を取り上げてきた本連載、最終回では「日本のワーママは幸せか」を考えます。共働きが多数派になってきた今、ワーママの幸福度も高まっているのでしょうか?

働くママの幸福度を6つの指標でチェック

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。日経DUALが創刊5周年を迎えられたとのこと、おめでとうございます。記念すべき節目で、かつ本連載も最終回ですので、やや大きなテーマを据えましょう。

 ズバリ、働くママさんの国際比較です。女性の幸福度や男女平等指数の国別ランキングはよく見かけますが、皆さんのような共働きで子育て中のママに対象を絞るのがポイントです。働くママの幸福度の国際比較をしてみようと思います。

 何をもって「幸福」とみなすかは価値観の問題ですが、1)当人の意識、2)客観的な生活条件、3)社会のクライメイト、という3つの柱を立ててみます。1)は、当人がどれほど幸福感を抱いているか、仕事・家庭に満足しているかです。2)は、夫との家事分担、夫と比較した稼ぎの額です。「男は仕事、女は家庭」というジェンダー観念が薄いなら、これらは均分に近づくはず。3)は、女性が働きながら子育てをすることに対する、世間の眼差しです。「子が小さいうちは、母親は働くべきではない」などという考えは、払拭されたいもの。

 このような枠組みを念頭に、働くママの幸福度を測る指標として以下の6つを考えました。

A:今の生活は幸せだ
B:仕事に満足している
C:家庭生活に満足している
D:夫が自分と対等以上に家事をする
E:夫と対等以上の稼ぎがある
F:働く母親も(そうでない母親と同じくらい)子どもに愛情を注げる

 A~Eは、18歳未満の子がいる有配偶・有業女性の回答によります。最後のFは、18歳以上の国民全体の意見に依拠します。ISSPが2012年に実施した『家族と性役割の変化に関する調査』の個票データを加工し、それぞれに該当する人の割合(%)を国ごとに計算しました。

 結果の一覧表は示せませんが、国によって値は大きく違っています。日本の数値を示すと、Aは45.9%、Bは22.2%、Cは39.4%、Dは24.5%、Eは6.9%、Fは71.2%、です。Eは低いですねえ。共働きのママのうち、夫と対等以上の稼ぎがある人は6.9%(14人に1人)しかいません。妻の稼ぎが一定額を超えると損をする、配偶者控除制度も影響しているでしょう。今年からこのラインが103万円から150万円に引き上げられましたが、額の問題ではないような気がします。

 それはさておき、データが得られた39か国の最大値と最小値を整理すると、表1のようになります。

 どの指標も大きな国際差があります。夫の家事分担率のトップはポルトガル、稼ぐ妻の率が最も高いのはインドとなっています。働くママへの寛容度(F)が最も高いのはデンマークです。こういう社会では、働きながら子育てをするママも過ごしやすい

 39か国の分布の中に、先ほど示した日本の値を位置づけると、AとFはやや高いものの、その他は明らかに低いと判断されます。とくにE(稼ぎ)は惨憺で、最下位のオーストリアに次いで低くなっています。