教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第62回では、親子関係の貧困化を取り上げます。そもそも親子関係においての「貧困」とはどんなことなのでしょう。舞田先生のまとめたデータと分析には、子の幸せを願う共働きのほとんどがドキリとするはずです。

人間にとって、他者との関係も重要な「資本」

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。すっかり社会問題化している「貧困」ですが、この言葉の意味は、必要な資本の不足(欠如)で生活に困窮することです。貨幣経済が浸透した現在では、資本の最たるものはおカネです。貧困状態の人を割り出すに際しては、当人の経済力に注目されます。いわゆる貧困率とは、所得が中央値の半分に満たない世帯に属する人が国民の何%かです。

 しかしながら、資本はおカネだけではありません。人間は他者と協働する社会的存在であって、いざという時に頼れる人、言葉を交わし精神の安定を得られる親密な人がどれほどいるか、ということも重要になります。貨幣経済が浸透する前の大昔はもちろん、現在でも後発の発展途上国ではこちらが重視されているでしょう。いわゆる人間関係、専門用語でいうと「関係の資本」です。

家庭内での会話量が子どもの読解力に影響している?

 『AERA』の4月16日号に、面白い記事が出ています。「経済的貧困ではない『関係の貧困』が子どもの読解力に影響」というものです。

 無料塾に集まってくる貧困家庭の子どもをみると、読解力に乏しい、数学の計算問題はできるが文章題になるとできない、LINEでの細切れの単語の会話に浸っており文章を構築できない…。こういう傾向があるのだそうです。

 その原因として、家庭での「関係の貧困」があるのではないか、と推測されています。貧困家庭では親子のコミュニケーションが少なく、子どもはネットで好きなコンテンツを見てばかり。自分の世界に籠る。その結果、未知のものに触れ、何かを読み解くことも減ってしまうのではないかと。そして、ズバリ次のように言われています。

「家族の中での会話量が大事。親の長時間労働が問題ということです」

 グサッときますねえ。しかし、的を射ているような気がします。とりわけ読解力や文章力となったら、こういう因果経路は強いでしょう。おカネを払って参考書を買ったり、塾に通ったりすることで、一朝一夕に身に付くものではありません。対人のコミュニケーションの量がモノをいいます。記事のタイトルの通り、経済的貧困よりも「関係の貧困」が影響すると思われます。

家族とよく話す子ほど勉強が得意と答えている

 興味深い説ですが、データで可視化されるでしょうか。国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する調査』(2014年度)では、小学校4~6年生の児童に「家の人とその日の出来事について話すことがどれほどあるか」と尋ねています。

 この問いへの回答を、勉強の得意度とクロスさせてみましょう。経済的貧困のレベルを統制して「関係の貧困」の影響を取り出すため、年収400~500万円台の家庭の子に対象を絞ります。小4~6年生の場合、年収のボリュームゾーンはこの階層です。

 図1は、クロス集計の結果を帯グラフにしたものです。両方の設問に有効回答を寄せた、1931人の児童のデータによります。

 4つの群の勉強得意度(自己評定)をみると、家族とよく話をするグループほど、勉強が得意という子が多くなっています。家族と話をする頻度が最も高い群では、52.3%が勉強を得意と答えていますが、会話頻度が最低の群では28.4%しかいません。

 これは家庭の年収を揃えた比較で、塾通いの費用負担能力のような、家庭の経済力の影響は除かれています。統制すべきファクターは他にもあるでしょうが、家庭でのコミュニケーション頻度の影響を示唆するデータとみてよいでしょう。