保育所不足の地域では、女性就業率が低いまま

 こんなわけですので、乳幼児がいる親御さんが必死に保活に取り組むというのはよく分かります。しかるに保育園に入れるかどうかは、時期や居住地などの運に左右される部分も大です。ラッキーな夫婦は数百万円の妻の稼ぎを失わなくて済み、不運な夫婦はそれを奪われてしまう。保育園に入れず、夫婦の片方が離職を強いられた世帯は、子どもの大学の学費を減免したらどうか、という気にもなります。

 だからこそ、女性も妊娠・出産で離職することは避けなければなりません。小さい子がいるママさんの就労を可能ならしめるには、保育所の整備が不可欠です。この当たり前の事実(fact)をデータで可視化して、おしまいにしましょう。

 厚労省の『社会福祉施設等調査』という資料に、都道府県別の保育所・認定こども園(幼保型)の定員数が出ています。これを各県の0~5歳人口で割れば、乳幼児100人にいくつのイスが用意されているかという、保育所供給率になります。

 この指標が、幼子がいるママさんの就業率とどう相関しているか。図3は、2軸の座標上に47都道府県を散りばめた相関図です。縦軸の就業率は、2015年の『国勢調査』から計算しました。

 保育所供給率が高い県ほど、母親の就業率が高い傾向にあります。相関係数は+0.8117にもなり、大変強い相関関係です。左下にあるのは、保育所不足で女性の就業率が低い状態にとどまっている地域で、多くが大都市県です。

福祉を家庭に依存することには危険がある

 ただバラツキもあり、山形や沖縄は、保育所供給率がさほど高くないにもかかわらず、ママさんの就業率が高くなっています。三世代同居率が高い、幼児の面倒を見合う人的ネットワーク(ゆいまーる)が豊富、というような要因があるのでしょう

 三世代同居率も、幼子がいる母親の就業率と強く相関しています。しかるに、私が前に三世代同居率と保育所供給率を同時に取り込んだ重回帰分析をしたところ、母親の就業率へのプラスの影響は、後者のほうが高く出ていました(拙著『データで読む・教育の論点』晶文社、2017年)。

 政府としては、三世代同居を推奨し、小さい子だけでなく老人の世話もしてもらおうという目論見なのでしょうが、そういう「私(家庭)」依存の福祉はそろそろ止めるべきかと思います。北欧では、三世代の同居は忌み嫌われ、幼子や高齢者の世話は家族ではなく社会が第一にすべきと考えられています(拙稿「育児も介護も家族が背負う、日本の福祉はもう限界」『ニューズウィーク日本版』2016年2月16日)。

 実は、家庭というのは恐ろしい空間なのです。日本の殺人事件の半数近くは、家庭内で起きています。虐待死、介護殺人…。この私空間に、保育や介護を密封するのは怖いことだと前から思っています。