教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第59回では、中学受験をしようか迷っている親が気になる費用や進学先、いじめについてのデータを私立と公立で比較しました。最終ページでは早期受験がもたらす弊害にも言及しています。子育てで最も大切にしたいことは何か、この機会に考えてみませんか。

大都市で進む受験の早期化 私立中を選ぶ親の思惑は?

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。前回の記事にて、教育の内容は年齢とともに変わるものであり、最初の進路分化(segregation)が起きるのは15歳、高校進学の時点であると書きました。

 しかるに、これはわれわれのころの話で、最近では必ずしもそうではないでしょう。東京のような大都市では、とくにそうです。中学校、早ければ小学校で分岐が訪れます。公立に行くか、私立に行くかです。

 東京都教育委員会の統計資料から、都内23区の公立小学校卒業生の国・私立中学進学率を計算できます。公立中ではなく、国・私立の中学に進んだ子が何%かです。今から40年近く前の1980(昭和55)年春では8.9%でしたが、2017年春では21.9%になっています。最近では、およそ5人に1人です。スゴイですねえ。地方出身の私からすれば驚愕です。

 区ごとに見るともっと高い値が出てきます。23区別に国・私立中学進学率を出し、3つの階級で塗り分けた地図にすると、図1のようになります。左は1980年、右は2017年のマップです。

 地図の模様が濃くなっています。1980年では20%台の区が2つでしたが、2017年では20%台が8区、30%以上が9区となっています。最も高いのは文京区で4割を超えます(41.3%)。大都市における早期受験化の進行が明瞭です。

 これは実際に進学した子の割合で、中学受験をしたという子に射程を広げると、割合はもっと高まるでしょう。濃い色が付いている区では、小学生の半分くらいが中学受験を経験しているのではないでしょうか。

 私立に行かせようという親御さんの思惑は様々でしょう。良質な教育を受けさせたい、エスカレーターの附属校で伸び伸び過ごさせたい、地元の荒れた公立中に行かせたくない…。そのためなら、高額の費用負担も辞さないと。

「公立だと塾代がかかるから私立に行っても変わらない」を検証

 公立より私立の学費が高いのは誰もが知っていますが、「公立は塾代がかかるので、トータルでは私立とあまり変わらない」という話も聞きます。中高の6年間で、塾等の学校外教育も含めた総教育費がどれほど違うか。公私比較をしてみましょう。図2は、結果を凝縮したグラフです。

 総教育費の背比べですが、私立のほうが高いですね。どの学年でも2倍以上です。公立の総教育費は、私立の学校教育費(入学金、授業料、設備費、通学費…)にも及びません。塾代は公立のほうがかさむようで、受験を控えた中3では年間32.2万円、通塾率は8割にもなります(赤の折れ線)。

 ただ私立でも塾通いする子は少なくなく、私立中の通塾率は6割ほどです。幼少期から塾通いをし、中学受験を突破したというのにまた塾通いとは、かわいそうな気もします。学校のハイレベルな授業についていくために塾通いさせる家庭もあるそうですが、お子さんから笑顔が消えていないか、気を配ってほしいものです。

 中高6年間の総教育費の合算は、公立が278万円、私立が709万円となります。差は431万円。公立出身者は大学受験で浪人する率が高いといわれますが、その費用を足しても私立には及びますまい。年間の浪人費用は100万円ほどですので。