いじめ容認の子が多いのに認知数が少ない私立。実態が気になる

 今度は、負の側面の比較をしてみましょう。「わが子がいじめに遭わないように」という思いで中学受験をさせる親御さんもいるそうですが、いじめは公立より私立が少ないのか。2016年度のいじめ認知件数は、公立中学校が6万8291件、私立中学校が2235件となっています(文科省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』)。学校数が違うので当然ですが、それを割り引いても私立は少ないですね(公立の30分の1)。

 しかし、いじめに対する意識は違っています。2016年度の文科省『全国学力・学習状況調査』では、「いじめはどのような理由があってもいけない」という項目への意見を尋ねていますが、「どちらかといえば、そう思わない」「そう思わない」と答えた中3生徒の割合は、公立が6.4%、私立が9.4%と、私立のほうが高くなっています。

 幼少期から塾通いをし、競争主義にさらされるためでしょうか。人格の礎は幼少期に築かれますが、この時期の生活にゆがみが起きると、後々の人格形成に悪影響が及ぶ恐れもあるでしょう。

 学校の対応も気になるところです。私立は客商売なので、いじめが多く発覚することは好ましくありません。統計上のいじめ認知件数は、公立より私立はうんと少ないのですが、実態をちゃんと拾えているのかどうか…。

 私は、表1のようなデータを作ってみました。中3生徒のいじめ容認率(公立6.4%、私立9.4%)から、いじめを容認する生徒の推定数を出し、文科省統計のいじめ認知件数と照合したものです。

 いじめを容認する公立中学校の生徒の推定数は20万553人です。実際に起きているいじめの近似(相似)数と見てよいでしょう。統計上のいじめ認知件数(6万8291件)は、このうちの34.1%に相当します。公的統計は、いじめの推定数の3分の1しかすくえていないようです。いじめは発見が難しいのでやむを得ませんが、私立は値がもっと低く9.8%です。いじめ把握度の試算値は公立が34.1%、私立が9.8%…。いじめ問題への対応の違いが出ているように思うのですが、いかがでしょうか。

お子さんは笑っていますか? 期待し過ぎのリスクに気を付けよう

 私は、早期受験の進行をあまりよく思っていません。私立中学の生徒の通塾率は思いの外高く(図2)、ハイレベルな環境についていくために塾通いさせる家庭もあると書きましたが、子どもの意に反してそうさせているなら、「虐待」以外の何ものでもないと思います。

 第17回の記事で書きましたが、虐待(abuse)のもともとの意味は、異常な仕方で使役することです。「abuse=ab+use」ですので。昔は、この意味合いで「虐待」という語が使われていました。女児を芸者に仕立てるべく無理やり芸を仕込む、家計補助のために子どもを長時間働かせる、といった行為です。

 エレン・ケイが「児童の世紀」と呼んだ20世紀にかけて、このような「abuse」は大幅に減ってきました。しかるに21世紀の日本では、少子化も相まって子どもへの期待圧力が高まり、別の「abuse」が生じつつあります。早期受験を志向するのは自由ですが、子どもにさせていることが「abuse」に転化していないかどうか、注意をしてほしいと思います。そのすべは、当人から笑顔が消えていないかを確認することです。