教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第58回のテーマはわが子に理系、文系のどちらを勧めるかです。文系・理系で将来どのくらい年収に差がつくのか、専攻や大学院へ行く・行かないによって就職率がどのように変わるのかを、舞田先生がはじき出しました。将来わが子をどのような道に進ませようか模索中のママ・パパたちは必読です。就職に有利といわれる運動部に入ることについての考察も「わが子に本当に必要な力とは」について考えさせられます。

専門教育を選ぶとき「稼げるかどうか」も気になるポイント

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。読者の皆さんは、お子さんに公教育(学校教育)を受けさせているわけですが、教えられる内容は発達段階によって異なります。早い段階では、読み・書き・算をはじめとした、全国民に共通して求められる基本的な知識・技術を学び、年齢が上がるにつれ、自身の意向や適性に応じて特定の領域を深めていきます。前者は普通教育(共通教育)、後者は専門教育です。

 この2つは教育を支える両輪で、どちらが欠けてもいけません。成員の間に十分な「同質性」がないと社会は成り立ちませんが、金太郎飴のごとく、似た者どうしばかりでもいけない。現代の高度化した社会を動かすには、各人の持ち味を生かした分業が不可欠です。つまり「多様性」も求められるのであり、それを担保するのが専門教育です。

 日本の制度の括りでいうと、初等・前期中等教育(小・中学校)までは普通教育で、後期中等教育(高校)では2色が混ざり合い、高等教育(大学等)になると専門教育の比重が高くなります。15歳の高校入学時に普通高校と専門高校(昔でいう職業高校)に分化し、前者では2年生あたりから文系と理系に分かれ、履修する教科の重みづけをし、それぞれの枠に適した大学の学部(専攻)に進む、という具合です。

 読者のお子さんもやがてはこの分岐点に達し、選択を迫られることになります。別に大げさに考える必要はなく、まずは当人の意向を尊重し、適性や能力といった条件を織り合わせて決めればいいだけのこと。しかるに、考慮すべき現実要素の中には「将来における成功可能性」もあり、多くの親御さんがこの点を気にしています。

 「どの専攻に行けば稼げるか?」。品のいい問いではありませんが、これに答えるデータを作ってみましたのでご覧に入れましょう。

文系・理系の年収比較。女子に大きな差が見られた

 OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」では、最後に出た学校での専攻分野(major)を尋ねています。日本の大卒男女(25~54歳)のサンプルを取り出し、大学時代の専攻に依拠して文系群と理系群に仕分けし、現在の年収とのクロスをとってみました。年収は国内の就業者全体の分布に基づく相対区分で、原統計では6つの階層が設けられていますが、ここでは3つに簡略化しました(下位25%未満、中間、上位25%以上)。

 図1は、結果をグラフで表したものです。横幅を使って、文系群と理系群の人数比も表現しています

 ぱっと見、年収の性差が大きいことに気づきます。男性では「上位25%以上」が多くを占めますが、女性は「下位25%未満」が結構います。同じ大学・大学院卒でです。女性の場合、家計補助のパート就業が多いと思われますが、この格差は酷い。

 ここでの関心事である文系・理系の差をみると、大学時代に理系を専攻した者のほうが、文系専攻者より年収が高くなっています。女性はそれが明瞭で、「上位25%以上」の割合は、文系は19.3%であるのに対し、理系では40.8%にもなります。「下位25%未満」のプアの比重は、これの裏返しです。理系の女性は既婚者が少ないのではないか、と言われるかもしれせんが、文系群と理系群の既婚率に大きな差はありません。

 最近では「リケジョ」が重宝されるといいますが、女子の場合、理系に進むことのベネフィットが大きいといえるかもしれません。しかしながら、そういう女子は少ないのが現状。グラフの横幅を見ても、女性では文理の人数比が「3:1」になっています(男性はほぼ半々)。

 日本の女子生徒の理系職志望率は低いのですが、「女子なのに理系なんて……」という周囲の偏見が寄与していることが少なくありません。それがいかに馬鹿げたこと、勿体ないことであるかは、図1のグラフを見ると分かるかと思います。個人の稼ぎがどうかというカネ勘定の話だけではなく、女子の理系の才能が摘まれることは、社会にとってもマイナスです