教育社会学者の舞田先生が統計データを使って、子育てや教育にまつわる「DUALな疑問」に答える本連載。第55回では子どもの体験レベルが道徳行為や自己イメージに及ぼす影響について考えました。もうすぐ春休み、そして新生活が始まりますね。これから子どもにどんな体験をさせるべきなのか。ぜひ、新学年での過ごし方を考える手掛かりとしてお読みください。

「体験」は教科書を理解するもとになる

 こんにちは。教育社会学者の舞田敏彦です。もうすぐ春休みですが、お子さんにはいろいろな体験をさせたいものです。

 子どもの育ちにとって、各種の体験は大きな意義を持っています。自然や動植物への慈しみの念は自然体験を通して育まれますし、弱者への思いやりは、そういう人を手助けする経験を通して内面化されます。

 勉強にしても、教科書に書いてある抽象的なことを理解するのは、自分が持っている原体験に引き寄せてです。教科書の内容は、社会生活に必要な「読み・書き・算」や、生活上の諸問題を解決するための知恵を体系的にまとめたものです。その原点は、先人が実生活の中で遭遇した体験です。それに通じるものを持っている子とそうでない子では、勉強ののみ込みにも差が出てくるでしょう。

子どもたちがどんな体験をしているのかスコア化

 今回は、体験活動の効果をデータで明らかにしてみようと思います。各種の体験の多寡によって子どもをグループ分けし、道徳行為、自己イメージ、勉強の得意度がどう違うかを分析してみます。

 用いるのは、国立青少年教育振興機構の『青少年の体験活動等に関する実態調査』(2014年度)の個票データです。小学生調査の問3にて、各種の体験の頻度を尋ねています。

 家事、他人の世話、自然体験に関わる17項目です。これらの回答を合成し、体験活動の量を測る単一の尺度(scale)を作ってみます。

 「1」という回答には3点、「2」には2点、「3」には1点のスコアを付与します。この場合、対象児童の体験活動のレベルは、17~51点のスコアで計測されます。全部「1」と答えたバリバリの体験っ子は51点で、全部「3」の子は17点です。

 小学生調査の対象は4~6年生ですが、発達段階の影響を除くため4年生に絞ります。また家庭環境の影響が入るのを防ぐため、年収が400万円以上600万円未満の家庭の子に限定します。小4児童の場合、家庭の年収のボリュームゾーンはこの階層です。

 年収400万円以上600万円未満の家庭の小4児童で、上記の17項目全てに回答したのは654人です。この654人の体験活動スコアの分布をグラフにすると、図1のようになります。