クルマが必要な県ほど生活保護を受けていない! その理由を探ってみよう

 自動車の普及度(必要度)が高い地域において、生活保護の条件としてクルマを手放すことを課されるのは、非常にキツイでしょう。生活困窮状態にありながらも、この条件を受け入れられず、保護を受けるのをためらう(諦める)世帯も多いのではないか

 この点を統計で検証する術があります。低所得世帯における自動車普及度(表1の数値)と、生活保護受給世帯率の相関関係を調べることです。

 私は、47都道府県の母子世帯の生活保護世帯割合を計算してみました。母子世帯(母親と未成年の子からなる世帯)のうち、生活保護を受けている世帯が何%かです。分子は2015年の厚生労働省『被保護者調査』、分母は同年の総務省『国勢調査』の数値を使いました。表2は、高い順に並べた都道府県ランキングです。

47都道府県の母子世帯の生活保護世帯割合。表作成/舞田敏彦
47都道府県の母子世帯の生活保護世帯割合。表作成/舞田敏彦

 母子世帯の生活保護受給率を県別にみると、26.0%から1.1%までの開きがあります。スゴイ差ですね。大阪や京都では母子世帯の4分の1が保護を受けていますが、富山では100世帯に1世帯です。

 下位の県(右下)をみると中部や北陸の県が多くなっています。家族関係が濃いので、親や親族からの援助を期待できるためでしょうか。それもあるでしょうが、母子世帯の被保護率が低い県は、クルマの必須度が高い県が多いのです。黄色マークは、低所得世帯の自動車保有台数(表1)が上位10の県です。

 相関図を描くと、表1と表2の数値が非常に強く関連していることが知られます。図1をご覧ください。

自動車の必須度と母子世帯の被保護率の相関図。図作成/舞田敏彦
自動車の必須度と母子世帯の被保護率の相関図。図作成/舞田敏彦

 強いマイナスの相関関係です。低所得層の自動車保有量が多い県、すなわちクルマの必要度が高い県ほど、母子世帯の生活保護世帯割合が低い傾向にあります。

 母子世帯の被保護世帯率のファクターとしては、都市か地方かといった基底的特性に加え、各県の生活保護行政のようなものも考えられますが、自動車保有問題との関連もうかがわれますね。先に紹介した赤石氏の記事でも、そのようなことが指摘されています。

 年収五分位の最下層には、母子世帯が多く含まれるでしょう。保護の代償にクルマが取り上げられるとあっては、通勤や子どもの送迎もままならなくなる。しからばと、保護申請を断念し、困窮状態を耐え忍ぶ……。地方、とりわけ図1の右下の県では、こういう葛藤に苛まれているシングルマザーが多いと思われますが、どうでしょうか。

 母子世帯を対象とした調査で、この説の裏付けを得られたらと思います。各県の行政がその気になれば、すぐにだってできるでしょう。埋もれている貧困を掘り出すための最初の一歩です。

子どもの貧困を解消するために生活保護と自動車保有の問題をもっと取り上げよう

 しかしこんなデータを待たずとも、交通網の乏しいエリアでは、生活保護世帯であっても自動車の所有は認められるべきであると考えます(高級車以外)。また今後、移動という機能に特化したミニカー(1~2人乗り)もどんどん出てきますので、生活が軌道に乗るまでの間、こういうマシンの貸与が考えられてもよいでしょう。

 赤石氏の記事では、「データをさらに集めながら、生活保護の自動車保有の問題を正面から取り上げるべきなのではないだろうか」と書かれています。ここで示した都道府県単位のマクロデータが、その礎石になれば幸いです。

 来春に元号が変わりますが、平成に次ぐ新時代が、子どもの貧困問題解消の時代になることを願います。