PISA(OECDの国際学力調査)で好成績を挙げ、イギリス・ピアソン社による世界の教育水準ランキング2012年で1位に選ばれるなど、教育大国として各国から熱い視線を注がれるフィンランド。同国では、日本の学習指導要領に相当する「コアカリキュラム」の改定が約10年ごとに行われ、就学前教育(プレスクール)から義務教育の9年生(日本の中学3年生)までの教育現場では、2016年秋から国の新カリキュラムを導入。今年秋からは、保育園での改革も実施されている。

子どもの学習意欲を引き出すための小学校現場の取り組みに着目した前回に引き続き、今回は、起業家的な視点や考え方を学童期から学ぶ職業・社会体験プログラム「Me&MyCity(ミー・アンド・マイシティ)」を紹介。体験学習に加えて、前後数回にわたる学校での授業によって構成される本プログラムは、IT技術の活用やゲーミフィケーション、官公庁・学校・地元企業間の連携などフィンランド独自の手法が光っている。ミニチュア都市で働き、消費活動や納税を疑似体験する小学6年生の活動内容を取材するともに、子どもたちを引率していた教師に労働環境と仕事のやりがいについて詳しく話を聞いた。

【フィンランド教育の今】
(1) フィンランド教育 未来を担う子どもたちへの投資
(2) フィンランド イスから自由になれば子どもは伸びる
(3) フィンランド 起業家精神を養う、企業の幹部体験 ←今回はココ

6年生の7割が参加 職業・社会体験プログラム

 起業家精神の育成と職業能力開発にも力を入れているフィンランドの新カリキュラム。「Me&MyCity」は、6年生と9年生(中学3年生)を対象にしたフィンランドの職業・社会体験プログラム。学校ごとの参加が基本で、6年生は様々な企業で働くとともに、消費者であり市民としての活動を1日体験する。9年生は、グローバル企業の経営と銀行の業務を体験。ミニチュア都市の中でビジネスや経済を疑似体験しながら、社会への興味をはじめ、思考力や課題解決力、チームワークなどの起業家精神を育む。

 2009年に始まり、現在はフィンランド国内に8カ所展開。運営は政府や地方自治体、財団、企業の支援を受けて行われ、現在は計約150の企業と各3年間のパートナーシップ契約を締結している。6年生の7割にあたる約4万5000人が毎年参加し、昨年からは9年生向けプログラムも始まった。

 今回訪問したのは、ヘルシンキ郊外にあるヴァンター市の「Me&MyCity」。かつて博物館として使われていた趣のある施設が再利用され、当日はマルティン・ラークソン小中一貫校に通う6年生が参加していた。

ヘルシンキ市とヴァンター市内に住む約7500人の小中学生が毎年訪れる「Me&MyCity Helsinki-Vantaa」
ヘルシンキ市とヴァンター市内に住む約7500人の小中学生が毎年訪れる「Me&MyCity Helsinki-Vantaa」

 職業・社会体験施設と聞くと、日本でもおなじみの「キッザニア」を連想するが、Me&MyCityの施設は、キッザニアに比べると、広い展示会場の中に箱形ブースが並んでいるような簡素な作り。15~20社が軒を連ねる各ブースの看板には、ノキアやサムスンといった有名企業のほか、スーパーや電力会社、病院など実在するパートナーシップ企業名が書かれ、机やパソコン、販売用の商品など必要最低限の物だけが置かれている。

スーパーやレストラン、銀行、携帯電話会社、公共施設など、地域に身近な企業・団体のブースが軒を連ねる
スーパーやレストラン、銀行、携帯電話会社、公共施設など、地域に身近な企業・団体のブースが軒を連ねる