トライ&エラーで進んでいく 教師のやりがいと労働環境

 「その日によってはテストの点数付けがあったり、会議があったりと少し延びることはあるけれど、通常は8時間勤務。だいたい朝8時に来て16時には帰ります。小学校の授業は14時までで終わるので、その後、ペーパーワークをしたり保護者へ連絡をしたり、テストの点を付けたり、先生同士で話し合いを持ったりしていると、大体16時くらいに収まります。自分に自由裁量があるというか、自分が計画して自分でどう進めるかを決められる自由があるのでそこはいいと思いますね」(ヤロさん)

 「給料もまあ普通という感じ。通常の週末以外に学校に合わせて夏休みは2カ月、冬休みは2週間と休みもしっかりとあります。やはり生徒のために大切なのは、先生もリフレッシュして、楽しくやる気をもって学校に行くということ。先生のウェルネスも大切だと私は思います

 夏休みの2カ月は研修や補習もなく本当に休んでいるのだろうか。ヤロさんに聞いてみると、「完全に休んでいます」とにっこり。

 「5月や12月など成績表をつけるころ(※フィンランドの小学校は、通常8~12月と1~5月の2学期制。5月と12月に試験がある)はどういう評価をその子に与えるかということで、ものすごいストレスがかかります。私の場合は、夏休みに入った最初の2週間はただぼーっとしていて本当に休んでいますね。その後は自分の趣味や家のことをしたり、旅行に行ったり、子どもの面倒をみたりしています。クリスマスホリデー(冬休み)は、本当に何もせずに終わってしまうことも多い。でも仕事からは完全に離れています」

 “落ちこぼれ”をつくらないことで知られるフィンランドの教育。一人ひとりの個性や発達に寄り添い、適切な関わりを考える時間の取り方を次のように話す。

 「先生同士で休み時間の間に話すこともあり、週に3時間くらいはミーティングのような形で話し合う機会があります。難しいケースのときはそうした会議で話し合いますが、基本的には一人ひとりの生徒を人間として『この子はどういう子か』ということをよく見たうえで、普段の学校生活の中で、この子はもっと難しい課題を与えても大丈夫だと思えば伸ばすために与えるし、そうではない子はもう少し時間をゆっくりかけて教えていこうという、その子の習熟度に合わせたスタンスです。確かに『考える』時間は、家に帰ってからとか休日になることがありますが、それならそれで学校にいる必要はありませんよね。それは自分の気持ちの持ちようだし、先生自身がどうするかという問題だと思います。まずはトライ&エラーでやってみて、そのうえでどうするかということを考えるようにしています

 個を尊重し、やり直しが利くトライ&エラーの考えはフィンランド社会に浸透し、教育システムにも表れている。9年間の義務教育課程が修了した後の進学先には、「高等学校」と「職業訓練校」、「大学」と「高等職業専門学校」とそれぞれ2方向に分かれ、どの進路を選んでも同等の教育レベルだと認識されている。

生涯学び続けられるフィンランドの教育システム
生涯学び続けられるフィンランドの教育システム

 基本的には選択した進路を基に人生設計をしていくことになるが、一度決めた後、学んでいく途中で目標が変わり、進路変更を希望するケースも出てくる。そうした場合、職業訓練校を卒業した後に大学へ進学したり、高校を卒業した後に職業資格と大学入学資格試験の両方を目指す道も開けていたりと自由に行き来し、一度選んだ道でも軌道修正することができる。スポーツや芸術など、学業以外の分野に打ち込むために一時的な休学をする生徒も珍しくなく、そのため一度ドロップアウトをした子も、所定の手続きをとって学校に休学を申請すれば、学びたいときに学び直しをする環境も整っている。

 これらは、大学まで学費が無料であり一定期間内に卒業しなければならないといったプレッシャーがなく、伸び伸びと勉強ができる環境があることも大きいだろう。日本とは人口の規模も社会システムも異なるフィンランドではあるが、時代を生き抜くために、国民一人ひとりが迷いながら回り道をしてでもやり直しが利く教育環境を築き上げてきたその姿勢からは、大きく見習うところがあるように感じた。

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(文・構成・写真/日経DUAL 加藤京子 取材協力/フィンランド大使館、フィンランド外務省、フィンランド貿易局)