【教育大臣インタビュー】「何を学ぶ」から「どのように学ぶ」への転換

 

 「今回のカリキュラム改定は、学ぶ意欲や学校生活における生徒の自主性を促進することに焦点を当てています。学び考え、新しいスキルやクリティカル・シンキング、創造性を身に付けることは、未来のより良い教育に向けた重要な要因になるでしょう」とは、サンニ・グラーン=ラーソネン教育大臣。4歳の女の子を育てるDUALママでもある。

サンニ・グラーン=ラーソネン教育大臣
サンニ・グラーン=ラーソネン教育大臣

 カリキュラム作成には4年の月日をかけ、教育機関をはじめ、校長、教師、研究者、教員研究員とともにオープンな場で包括的な対話を行い、協力体制の基礎をつくった。

 「新カリキュラムは、『何を学ぶ』から『どのように学ぶ』へと大きく転換しています。各校には1人、指導役の教師を配置しました。専門的で高度な訓練を積み、高く尊敬される教師たちは、フィンランド教育の成功のキーポイント。様々なステークホルダーを巻き込み、導入前から理解が広がったことで、新カリキュラムに対する世間の反応は、主にポジティブなものでした」と、ラーソネン教育大臣は振り返る。

 教師や学校の自由度の高さは、社会的な信頼の高さに裏付けられている。教師になるためには修士号を取らなければならず、教育学部の合格率は約10%と狭き門。政府が必要な教師数に応じて学生数を決めるため、卒業後はほぼ全員が教師として就職することができる。医師や弁護士といった専門職と比べると、給与水準は及ばないものの、両者と並んで人気の職業だ。

 「フィンランドの教育システムはまだ完璧ではありません。私たちはPISAの結果に誇りを持っていますが、それ以上に移りゆく社会の中で、教育もそれに合わせて変遷していく必要があると感じています」と、課題を挙げるラーソネン教育大臣。各国がPISAのランキングを上げる教育を行う中、PISAによって見えてきた男女間の格差や経済的発展、地域差という課題の解決に国を挙げて取り組む。

 「PISAのトップクラスを維持することは、それ自体がゴールではありません。PISAのような学習は、課題を探すことを可能にするという点で有益です。“落ちこぼれ”を出さないことが特長のフィンランド教育でしたが、今日教育格差が広がっています」

 「フィンランドの女の子は学校で優秀である一方、女の子と男の子の成長の差が顕著であることを案じています。小中学校(7歳~15歳)の男の子は、ドロップアウトする率が高く、教育や訓練、雇用においても女子よりも継続しない傾向があります。そのことが健康や人生における様々な問題も招くでしょう。『フィンランドの学校は、家庭環境や社会的なステイタスに関係なくすべての生徒に行き届いた教育をする状況に戻る必要がある』と考えており、私たちは後れを取らずに挑戦に取り組む必要があります。新しいソリューションや改革を広げる学校や先生を今後も積極的にサポートしていきたい」

 学校を取り巻く世界情勢が大きく変化し、グローバル化やIT化が進む中で、子どもたちは変化に対処できたり、自らチャンスをつかんだりするスキルを必要としていると強調するラーソネン教育大臣。未来の挑戦を生み出すために、異なる科目を横断しながら身に付けるべき能力としてと次の7つを挙げた。

<新カリキュラムが重視する7つの能力>
1.学び考えること
2.文化的能力、相互作用、表現力
3.自分自身を守る、日々の活動や安全をマネージメントする
4.マルチリテラシー(広い意味の多岐的なコミュニケーション能力)
5.ICT能力
6.ワーキングライフや起業家精神のために必要な能力
7.社会に参加し、持続可能な将来を形成する能力

 日本の教育が大きな変革を迎える2020年に向けて、親として不安を感じている読者も多いだろう。教育先進国が“世界ランキング”よりも重視する、次世代に必須な能力をぜひ参考にしてほしい。

(文・構成・写真/日経DUAL 加藤京子 取材協力/フィンランド大使館、フィンランド外務省、フィンランド貿易局)