学校を楽しくするにはどうしたらいい? 子どもたち自身が考え決める

 「先生は『学校を楽しくするためにはどうしたらいいか?』と生徒に問う機会を作ります。生徒からの提案である学校では、休み時間に体育館でトランポリンを利用したダンクシュートを行ったり、学校内に卓球台を置いたり、クライミングウォールを作ったりしました。フォトコンテストに参加し、入賞賞金で校庭にブランコを購入した例もあります。予算がなくても、床にテープを貼って線やマスを作るだけでも、子どもたちは遊ぶようになります」

 

 「『休み時間も自転車で遊ばせてほしい』という生徒のアイデアから、『自転車day』も生まれました。これは“運動場にアクティビティーを作る”という目的のために、5~6年生と親が協力してお金を集めたことから実現したもの。発案から実行するまでの過程はもちろん、遊具を出し遊んだ後は後片付けをするという部分まですべてが教育の一環だと考えています」

 

 こうしたプログラムを継続して行うことにより、肥満や糖尿病の子どもの数が減少するといった健康面の改善があるほか、ルール順守や落ち着き、学校への参加意欲の向上、さらに生徒・先生の協力、関係が密になったという前向きな変化が報告されているとヘンナさん。プログラムを実行するうえで、次の4つの要素を取り入れることが大切だとアドバイスする。

   
<運動促進プログラムで大切な4つの要素>
・学習環境を整えるためにオルガナイザーを配置すると効果が高くなる
・適切な道具や施設が与えられることで、動きが促進される
・先生ではなく、生徒・仲間がお互いに教え合う環境をつくる
・男女共通のアクティビティーのほか、性別で異なるアクティビティーもつくる
 

 「個人差はありますが、男の子は力によって自分の場所を確保したがる子も少なくありません。そうした場合は、女の子用を作ることで、女の子はよりアクティブに動く傾向が見られます」

 

 実際の教育現場では、どのように運用されているのだろうか。次からは本プログラムを取り入れている学校の一つ、ヴィヘルカッリオン小学校の授業や取り組みを紹介する。

学校は自ら学ぶ場所 ソファとテーブルでリラックスした教室環境

 

 首都ヘルシンキの西側に位置し、フィンランドで2番目に大きな都市・エスポー市にあるヴィヘルカッリオン小学校。学校の敷地に入ると、校庭で子どもたちがブランコをしたり、グループになって軽い運動をしたり、公園で過ごすように生き生きと活動している姿が見られる。

 
写真左:フィンランドの国民的おもちゃ・ケッピヘボネン(棒馬)を使った障害物レースを楽しむ子どもたち。写真右上:地面に図形を描く日本の昭和の遊びを思わせる外遊びゲーム。写真下:広間には卓球台を配置
写真左:フィンランドの国民的おもちゃ・ケッピヘボネン(棒馬)を使った障害物レースを楽しむ子どもたち。写真右上:地面に図形を描く日本の昭和の遊びを思わせる外遊びゲーム。写真下:広間には卓球台を配置

 ヴィヘルカッリオン小学校では、ハンディキャップなどにより机を必要とする子ども用以外の机をほとんどなくし、各教室内にはテーブルやソファがあるだけ。

 「学校は教えるのではなく、自ら学ぶ場所。教室の中の配置は固定せず、授業内容に合わせて毎回変わります。先生は子どもに学び方を見せ、先生自身も子どもたちから学んでいくという立ち位置。グループワークをするときは先生も参加し、子どもの意見を引き出します。子どもの提案が採用されることで、『自分がチームの一員である』という自覚につながるのです」と、同小学校で17年間校長を務めるミッコさん。1人ひとり異なる生徒の能力や長所を伸ばしていくことで、より高度なチームワークが実現できるのだという。

教師が保管庫からタブレット端末を取り出して子どもに手渡す。ゲーム感覚で英語クイズの正答率を競うことで、母国語ではない語学を学ぶ敷居を低くし、授業への参加意欲も上がる
教師が保管庫からタブレット端末を取り出して子どもに手渡す。ゲーム感覚で英語クイズの正答率を競うことで、母国語ではない語学を学ぶ敷居を低くし、授業への参加意欲も上がる
 

 「I have this.」「How old are you?」。小学3年の英語の授業では、約15人の子どもたちがグループに分かれてオンラインゲームを使った英単語や英文法のクイズを行っていた。タブレット端末やスマートフォンを手にした子どもたちは、教師がスクリーンに映し出した問題の正答数を競いながら歓声をあげたり、頭に浮かんだ答えを相談したり、積極的に授業に参加している。

 フィンランドの公立小学校では、昨年秋の新カリキュラム導入を機に、ICT(Information Communication Technology)を本格的に導入。ヴィヘルカッリオン小学校では、iPadをはじめとした様々なタブレット機器を1.4人当たり1台の割合で用意している。授業では私物のスマートフォンを使っている生徒もいて、教育現場における運用の柔軟さが目を引いた。

 
3~6年生に英会話を教えるサッラ・カイトカリさん。タブレットと画面共有したスクリーンで文を作って会話をし合い、チームごとに課題クリアの速さを競う
3~6年生に英会話を教えるサッラ・カイトカリさん。タブレットと画面共有したスクリーンで文を作って会話をし合い、チームごとに課題クリアの速さを競う