母目線の編集者と子ども目線の著者、二人三脚で作った絵本

 共働き家庭で育ったまつおさんが絵本に込めた子どものころの気持ち。そこに、3歳の子を育てる岩崎書店の編集者増井麻美さんの母であり、編集者でもある客観的な視点が加わり、共働き母と子の物語ができました。ここからは、絵本に込めた働く母から子への思いと制作秘話を聞いていきます。

まつお 卒業制作で作った絵本を個展の会場に置いていたら、現在、『たからもののあなた』の担当編集者になってくださっている、増井さんに出会うことができました。そこから2年後くらいにデビュー作の『あめのひえんそく』が出来上がりました。

岩崎書店 増井さん(以下敬称略) まつおさんの絵は、初めて拝見したときから、動物たちの表情がとても豊かなのが素晴らしいなと驚きました。動物は本来表情を持っていないので、微細な表情を絵で描き分けるのは非常に難しいんです。でもまつおさんは最初からそこがとても上手で。個展の会場にも置いてあった絵本のサンプルの完成度も高かったので、一緒にやりませんかとお声かけしました。

── 『たからもののあなた』で、内に秘めた寂しさや切なさを見せるフウちゃんの表情は、本当に絶妙ですよね。

増井 一緒に作っていて思ったのですが、まつおさんは「フウちゃん」なんです。だから働く親を持つ子どもの寂しさや切なさがとてもよく表れていて、そこが素晴らしい作品になったと思っています。もし働く母の目線だけで作ったとしたら、また違うものになっていたと思います。

一児の母で『たからもののあなた』の編集を担当した岩崎書店の増井麻美さん(写真右)
一児の母で『たからもののあなた』の編集を担当した岩崎書店の増井麻美さん(写真右)

── もう少し、「働くお母さんの気持ちも分かって」というような内容になっていたかもしれませんね(笑)。

まつお でも実は、最初は「働くお母さんも大変で、頑張っているんだよ」ということを伝えようと思って描き始めたんですよね。

増井 最初に頂いたラフ「かぎっこルウ」はそうでしたね。でも制作を進めていくうちに、まつおさんが持つ子ども目線で描いたほうがいいと思ったんです。私自身は幼い子どもがいます。だから私は母親目線で読んでみて、引っかかるところはないかな、という視点で編集をしました。

── まさに二人三脚で作られたのですね。

働くお母さんがつらい気持ちにならないように、修正を何度も重ねた

── 絵本の中のフウちゃんは、優しくて家族思いで、寂しくても自分の中にためて我慢するタイプ。確かにまつおさんのイメージと重なります。でもあるとき、とうとうお母さんへの思いが爆発して、「お母さんはフウが好きじゃないの? どうして一緒にいてくれないの?」と泣き出しますよね。あのシーンは、親としては本当に胸が張り裂けそうなシーンでした。

「お母さんはフウが好きじゃないの? どうして一緒にいてくれないの?」、母を思い、寂しい気持ちが爆発したフウ
「お母さんはフウが好きじゃないの? どうして一緒にいてくれないの?」、母を思い、寂しい気持ちが爆発したフウ

増井 あのシーンは編集部からも色々と意見が出て迷ったところでもあるのです。働いているお母さんを責めているように感じられないか、という意見があって。他のページを含め、言い回しを微調整して、働いているお母さんが辛い気持ちにならないように何度も修正を加えました。でも、泣き出すシーンはやはり入れてよかったと思っています。働く親である私自身、とてもグッときたシーンでした。

まつお 私もとても悩みました。実際、私は、母に寂しさをあんなふうにぶつけたことはありませんでしたし、読者のお母さんたちを傷つけたくはありませんから。でも、やっぱり心の中では寂しい、という子どもの気持ちは本当で。同じように、お母さんに言えない子もいると思うんです。だからせめて絵本の中でだけでも、代弁できたら、と思いました。