中学校のとき不登校に 初めて母に爆発した日

── 忙しい中でも、両親の愛を日々感じながら小学生時代を過ごしたまつおさんですが、絵本の主人公フウちゃんは、あることがきっかけでそれまで我慢してきた気持ちを爆発させてしまいます。働く親からすると、胸がぎゅっとつかまれるような切ないシーンですが、まつおさんにもこうした気持ちが爆発してしまうという経験があったのでしょうか。

まつお 私自身は、フウちゃんみたいに爆発したことはあまりありませんでしたね。ただ、日常を過ごしている中でも、心の片隅にいつも寂しさのような気持ちが確かに存在していて。中学生になったときに、一度だけ母に思いをぶつけたことがあるんです。

── 何かきっかけがあったのですか?

まつお 実は思春期のころに、学校のこと、自分のこと、色々と悩みはあるのに、解決の方法が自分では分からないという時期がありました。学校に行きたいけれどどうしても行けないというときに、母は仕事があり、出かけなければいけない。寂しいと言って困らせたくはないし、どうしようもないと思っていたのです。でもある日気持ちが抑えられずに、「どうして行っちゃうの?」と出勤しようとする母を責めたことがありました。

── まつおさんが抱えていた本当の気持ちを、素直に伝えられたんですね。

まつお 「いつも頑張っている親に負担をかけたくない」という気持ちが先だって、ずっと言えなかった気持ちでした。でも、そのときは本当に苦しくて、母にそばにいてほしかった。母も「じゃあ、行かなければいいんでしょう!」とケンカになって……苦い思い出です(苦笑)。でも実際、仕事へ行かずずっと私に合わせて一緒にいてもらってもただ煮詰まるだけだったでしょうし、本当に行かないでほしい、と思っていたわけではなかったのだと今は思いますね。

愛情ある言葉かけと抱きしめるパワーの効果

── 募る思いを爆発させたのは、その一度だけですか?

まつお そうですね。母はいつも私の話を聞いてくれていましたし、応援してくれていました。大人になれば、働きながらいつもそれをしてくれることが大変なことというのも分かります。それにやっぱり、私は両親からも叔母やご近所のおばあさんからも、言葉や態度で愛情を表現してもらっていたからこそ、やってこられたのだと思っています。仕事をしていれば当然、ずっと一緒にいられませんよね。それは子ども心にも分かっていて。一緒にいられるときに、きちんと言葉や態度で愛情を伝えてくれていれば、それは伝わります。それが、絵本を通して私が一番伝えたかったことです。

── 絵本の帯に推薦文を書かれた臨床心理士のほあしこどもクリニック副院長・帆足暁子先生も、言葉で愛情を伝える大切さや抱きしめる効果を説いています。

まつお そうですね。私にもいつか子どもができたら、やはり両親にしてもらったように、遊びやボディータッチ、言葉で愛情をたくさん伝えてあげたらいいんだな、と思っています。


柔らかな雰囲気の中にも、大切なメッセージを絵本を通じて伝えたいというひたむきな思いが伝わってくるまつおさん。後半では、絵の道へ進もうと決意してから絵本作家としてデビューするまでの道のりや働く親から受けた影響について、さらに聞いていきます。

(取材・文/玉居子泰子 写真/品田裕美 構成/日経DUAL 加藤京子)

まつおりかこ

絵本作家・イラストレーター。1989年大分県生まれ東京都育ち。女子美術大学版画コース卒業。喜怒哀楽の表情が豊かな動物が特長で、見る人の気持ちを温かくする絵を描く。作品に『あめのひえんそく』『たからもののあなた』(岩崎書店)、『おふろだいすき! しろくまきょうだい』(教育画劇)、『いっしょにあそぼう いない いない ばあ!』『ねんねのじかん ねてるこ だあれ?』(共に永岡書店)、『レトリバーきょうだいのケーキやさん ロッタのプレゼント』(PHP研究所)