ご近所のおばあさんからの「あなたは宝物」という言葉が支えに

── 共働き家庭で育ったまつおさんですが、絵本の「フウちゃん」と同じく幼稚園に通っていたそうですね。当時、どんなふうに過ごしていたのですか?

まつお 私が幼稚園に通っているころは、母は家族が住んでいるマンションの管理人をしていました。当時は保護者が当番制で教諭とともに送迎を行う幼稚園だったので、近所の子たちと一緒に帰ってくると、母がマンション内で働いている姿が見えるような環境でしたね。いつも姉と母が敷地内の清掃などをしている様子を見ながら、外でおままごとをしていたのを覚えています。他にもマンションの向かいに住むおばあさんと仲良くなったり、近所のいつも行くお米屋さんのところに行って、お店のおじさん、おばさんに遊んでもらったり、ご近所の方に恵まれていました。だから普段は、全然寂しくはなかったんです。

── ご近所の方にも見守ってもらえていたというのはすてきですね。

まつお お向かいに住んでいるおばあさんは、姉が生まれたときから家族ぐるみで仲良くさせていただいていて、今でも本当によくしてくださっています。私を見かけるたびに、「あなたは私の宝物よ」と言ってくださるのです。その言葉は本当にうれしくて、大人になった今、血がつながっていなくても、ご近所のおばあさんのそうした言葉が自分をずっと支えてくれていたなと気付いたんです。だから、絵本に出てくるフウのおばあさんはこの方がモデル(1ページ冒頭絵本の左側のおばあさん)。そしてタイトルも「たからもののあなた」にしました。

── お母さんも、ご自身が働いて普段近くにいられない分、地域の方とのつながりを意識して深めてこられたのでしょうね。

まつお 今考えると、そうかもしれません。小学校に上がって、両親が起業をして会社に働きに行くようになってからは、叔母が私の帰宅後から母が帰ってくるまでの間、自宅に来て母親代わりをしてくれました。

お母さんがいるお友達の家に行くと募る「羨ましい」気持ち

── 小学校1年生からの生活の変化について、ご両親から何か事前に心の準備のようなことを言われたりしたのでしょうか。

まつお 実は、ちゃんと説明を受けた記憶があまりなくて、ある日、母から「今日は帰ったら叔母さんがいるからね」と言われて、「そうか、明日はお母さんはいなくて叔母さんがいるのか」と思ったことを覚えています。ただ、それまであまり叔母と一対一でじっくり話をしたことがなかったので、初日は本当に緊張してしまって。帰宅後すぐ、「お友達の家に行ってくるね」と逃げました(笑)。それで、その日以降、低学年のうちは毎日叔母が来てくれるようになりました。

── 帰宅時にお母さんが家にいないという状況に変わって、子ども心にどう感じていましたか?

まつお 「寂しい」という気持ちは普段はなくて、友達と遊んだり、姉とアニメや漫画を見たりして楽しく過ごしていたんです。夕方5時を過ぎたころに母から電話があり「今から帰るからお米を研いで炊いておいてね」と言われる―私にとっては、それが当たり前の日常でした。でも、全く寂しくなかったと言われるとそうではなくて、お友達の家に行って、お母さんがおやつを出してくれたりすると、「いいなあ、うちのお母さんも家にいてくれたらな」と思う瞬間もありました。

── 絵本の中にも、幼稚園のお友達の家に行ったフウちゃんが、園で描いたお母さんの似顔絵をすぐにママに見せている様子を羨ましそうに見ているシーンがあります。

まつお そうですね。私にとってこの絵本に取り組む原点となるシーンで、そのときの素直な気持ちを絵本に込めました。でも、それはあくまでも突発的な、でも確かな気持ちであって、実際は、父も母も休みの日にたくさん遊んでくれていましたし、忙しい中でもお菓子作りを一緒にしてくれたりして親からの愛は実感して育ちました。だから、当時、寂しさがひどかったという印象はないんです。