「職業に貴賎なし」「誰かのためにできることを」両親から様々な価値観受け継ぐ

 母からよく言われて覚えているのは「職業に貴賎なし」という言葉です。どんな職業にも価値があり、感謝とリスペクトの意を示すべきだと。

 そうした価値観を受け継いだので、今僕は、オフィスに来てくださる宅配業者の方や清掃のスタッフさんに、自然と自分から声を掛けてしまいます。

 高校時代もこんなことがありました。通学路の交通誘導に立っているおばさんに毎朝「おはようございます!」と元気よく挨拶していたのですが、高校3年生の3月になって、「春から大学進学のために上京するんです」という話をしたら、なんと餞別(せんべつ)をくれて。当時の熊本ですから、時給700円程度だったはずなのに、3000円も。その金額の重みをずしりと感じました。

 両親が発展途上国の子どもたちのために毎月寄付をしていたのもよく覚えています。「誰かのためにできることを」という両親の姿勢から影響を受けている部分も大きいですね。アパレル業界で、生産拠点の海外移転により、国内の工場が苦境に立たされているという現実を知って、何とかしたいと感じたことが、今のビジネスモデルにつながっていますから。

 人生を自力で切り開き、高い目標を達成するためには、誰かが決めた指標ではなく、自分自身が「こうありたい」と決めた指標で誠実に生きていくしかないと思います。そのための基礎力のようなものを、両親は僕に与えてくれたのでしょうね。

取材・文/宮本恵理子

山田敏夫
1982年熊本県生まれ。実家は熊本市内で100年続く老舗洋装店で、忙しく働く両親を間近で見ながら育つ中で独自の職業観を確立。大学在学中、フランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務。本場のものづくりに触れ、「メイド・イン・ジャパン」の服作りを目標に掲げる。卒業後、人材広告会社、アパレル系企画会社を経て、2012年、ライフスタイルアクセントを設立。工場直結型ブランド「ファクトリエ」を展開し、「汚れない白デニム(児島のずっときれいなコットンパンツ)」などのヒット商品を生み出す。これまで訪れたモノ作りの現場は600超。著書に『ものがたりのあるものづくり ファクトリエが起こす「服」革命』(日経BP社)。https://factelier.com/