産業カウンセラーでフリーライター、音楽療法の講師もしている太田由紀子です。私は2015年2月に受けた人間ドックで腫瘍が見つかり、同年4月に摘出手術を受け、術後の病理検査でがん罹患(りかん)が確定。抗がん剤治療を6カ月間受けました(関連記事「『悪い顔をしています』と言われたら卵巣がんだった」「抗がん剤治療中も家族が“普通”でいてくれた幸せ」)。

あれから4年がたち、現在は4カ月ごとの定期健診を受けています。抗がん剤治療中は副作用で毛髪が抜けてしまい、ツルツルの坊主頭でしたが、治療後は新芽が出るように新しい毛髪が生えていきました。3年3カ月で、腰下まであるロングヘアになりました。

以前の記事(「がんになって分かった弱者の気持ち 子ども用ウィッグ」)では、へアドネーションを知らずに治療前にカットした髪を美容院で廃棄されてしまい、とても悔しい思いをしたことを執筆しましたが、ようやく必要な長さに達したので今度こそヘアドネーションすることを決断。同じ時期に髪を伸ばし始めた中学2年の娘も自ら希望したので、親子ですることになりました。今回は、その模様をお伝えします。

へアドネーションとは?
へアドネーション=Hair Donationとは、小児がんや先天性の脱毛症、不慮の事故、病気などによって頭髪を失った子どものために、寄付された髪の毛でウィッグを作り、無償で提供する活動のこと

「髪を売ればいい」と笑った高齢男性

 ずいぶん知られるようになってきたへアドネーションですが、年代によってはまだ知らない方も多いようです。芸能人がヘアドネーションしてSNSで発信したりすることから、比較的若い世代は知っている人が多いのですが、高齢者は長い髪をよしとする風潮もあり、私が音楽講師をする高齢者施設では、髪を切って寄付すると話すと反対した方もいました。

 「売ればいい」と笑う高齢の男性に、へアドネーションについて詳しく説明したところ、参加されていた30人以上の高齢者の方々から賛同の大きな拍手が起こり、ホッとしました。ボランティアの概念が薄い世代とのジェネレーションギャップは、丁寧に埋めていく必要があると感じました。

 2019年3月17日、よく晴れた日曜日に、私と娘は東京・渋谷にある美容サロンに出掛けました。

 3年3カ月伸ばした髪を切るのは、私にとって感慨深いものがありました。一度はツルツルになったところから、少しずつ“発芽”。生え始めた頃は赤ちゃんのようだった髪の毛が、今は腰の下あたりまで伸びました。髪がこの長さになるまでには色々なことがあり、走馬灯のように思い出が駆け巡ります。

 がんになり、泣きながら過ごした日々、夏の暑い日もウィッグをかぶり、つらかったこと、髪だけでなく眉やまつ毛まで抜けてしまい、自分の顔を見るのも嫌になったこと……。さまざまな思いをしましたが、今はこうして普通に生活できています。悩み苦しんだ時間を共に過ごした髪を切り、私の髪は、誰かのウィッグになるのです。

 どこかにいる子どもの救いになる。その子の毎日に寄り添う。

 そうなることを願いつつ、サロンに向かう地下鉄の中、感慨深い思いに浸っている私の横では、娘がK-POPを聴きながら誰かにLINEを送っていました。

 どうして2年間伸ばした髪を切ることにしたのか、理由を聞くと「自分が切りたい気持ちもあったし、自分の髪が人の役に立つのであればいい」と返答。長髪が許されなかった小学校を卒業し、やっと娘はロングヘアにできたのですが、その髪を30センチ以上切ることは相当な決心がいることだったはず。でも娘なりに考えていたようでした。

 「どんな人のウィッグになってほしい?」

 そう聞くと、私の顔を呆れたように見ながら、娘は言いました。

次ページから読める内容

  • 娘のほうがあふれていたボランティア精神
  • 私たちの髪が「Onewig」になる工程
  • 私たちも貴重なものを受け取った、すてきな時間だった

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