自分のせいで、妻の体に負担をかけてしまう
悩みましたね。治療費の負担が大きかったことはもちろん、僕にとって一番ネックだったのは、自分に問題があるのに、採卵の痛みやリスクなどで、妻の体に負担をかけてしまうことでした。だって、理不尽じゃないですか。
夫婦で話し合いました。そして、僕らの出した結論は、「顕微授精はしない」というものでした。だからといって、子どもまで諦めたわけではありませんよ。「まずは、自分たちの体を健康にしないとね」ということになり、病院を頼るのではなく、自分たちで生活習慣を見直したのです。
当時の僕は、極度の冷え性で、指先や足先の感覚がなくなることもありました。沖縄出身の僕は、体を冷やす作用があると言われる南国のフルーツが大好物でしたし、極寒のカナダで暮らしている間も、頻繁に南国のフルーツを食べていました。もしかすると、そうしたことも影響していたのかもしれないと思いました。
1年ほど南国のフルーツを断ち、サプリメントや健康食品を積極的に取るようにしていました。体の中からも外からも冷えないよう、デスクワークではひざ掛けが欠かせませんでした。どれほど、それが影響したのかはよく分かりません。ある日、妻の月経周期が乱れたので産婦人科を受診すると、医師から、「妊娠していますよ」と言われました。まさか! と思いましたね。うれしかったです。
二人目の子づくり 諦めたのは娘の手術が決まったから
妊娠は順調でした。生まれた娘に呼吸器の疾患が見つかったためNICU(新生児集中治療室)には入りましたが、その後、娘はすくすくと成長して5歳になりました。以前から「きょうだいが欲しい」と言われていたので、つい最近まで、二人目の子づくりもしていました。ただ、やっぱりなかなか難しかった。
僕は42歳、妻は次の誕生日で44歳です。男性不妊というだけではなく、最近では、妻の月経周期も不規則になってきたそうです。ですが、すぐには諦めきれなくて……。
自分たちの中でけじめがついたのは、昨年、娘が股関節脱臼症で手術を受けることが決まってからです。両足を片方ずつ手術するため、以前のように歩けるようになるまでには1年以上かかるだろうと言われました。入院はもとより、術後は車椅子での生活となりますから、二人目どころではないですよね。いい意味で、諦めがつきました。今、目の前にいる娘との時間を大切にしていこう、というふうに、気持ちを切り替えられましたから。
後編では、山田さんの娘が、股関節脱臼症で手術を受けることになった経緯と、歩くことができない娘をポジティブに支える山田さんの父親としての在り方に迫ります。
取材・文/武末明子(日経DUAL編集部) 写真/坂齋清