仕事の悩みを打ち明けられず、一人で抱え込む日々

 一方で、体力的なつらさや「周囲に反感を持たれているのでは」という疑心暗鬼みたいな気持ちは続いていて、周囲に相談できる人もいませんでした。保育園のママ友とは、娘が成長して友達付き合いをするようになった今でこそ親同士も仲良くしていますが、当時は自分の内面を吐露するほどの交流はありませんでした。

 夫は仕事の都合がつくときに保育園の送り迎えをしたり、掃除をやってくれたりするなど家事・育児には協力的で、私の仕事の話も聞いてくれます。ただ、あんまり詳しい状況を話すと「そういう思いをしてまで働くことはない」という方向になってしまうので、深い話はしないようにしていました。

 そんな生活に転機が訪れたのは、娘が3歳ごろのことです。基本的には4時に何とか退社して保育園のお迎えに行っていたのですが、どうしても仕事が終わらず、延長保育になってしまうときもたまにありました。娘も初めのうちは「おやつが食べられる!」なんて楽しみにしていたのですが、あるときクラスで一番迎えが遅くなってしまったことがあって、それにショックを受けたようなのです

娘が口にした、「ママ、お仕事をやめて」

 他のママさんたちでも、時短からフルタイム勤務に戻して迎えが遅くなったときに、子どもが一時的に不安定になることはあるようで、保育園の先生は「初めはショックを受けるけど、慣れるから心配ないですよ」と言ってくれました。不安を覚えつつも、たくさん子どもを見てきている先生が言うのだから大丈夫なのだろうと思っていたのですが、娘の不安定さは増すばかり。

 やがて、朝起きるなり「今日も迎え遅いの?」とか「泣きたいと思っていないのに涙が出ちゃう」って言いながら泣いたりするようになったんです。良くも悪くも娘は多感な子で、「これはちょっとまずいかもね」と先生も言うようになりました。

 私自身も、疲れているときなど、甘えてきた娘に「ママも大変なんだよ」と言ってしまうなど、あらゆることに寛容になれなくなっていました。そして、娘が口にした「ママ、お仕事をやめて」という言葉。このままではよくない。仕事はしていたいけれど、もう少し時間的にも生活的にも、心に余裕が持てる仕事に変えたいなと思いました

――「下」編へ続きます。

(文/日経DUAL編集部 谷口絵美 撮影/坂斎清)