都市部に偏在する大学という問題

 じゃあ奨学金の返済で困っている人は一体なんなのか?ということになりますが、これは借りたはいいけど返済の資金を稼げなかった、ということです。つまり大学進学に意味があったのかどうかということで、財源が借金であろうと手元資金であろうと、発生していた問題です。

 「支払いのタイミングをコントロールすること」ができたばかりに、本来であれば買えないものが買えてしまうという問題は当然あります。クレジットカードや住宅ローンで破綻する人も同じです。

 ただし、この問題はすでに説明した通り、実家住まいならばほとんど発生しない問題です。自分が相談を提供する夫婦は東京を中心に首都圏に家を買う人が多数を占めます。したがって奨学金の不安については「実家住まいならフリーターでも破綻はまずありません」で話は終わりです。親子で奨学金破産といった報道もありますが、これは親が連帯保証人になった場合です。保証料を払えば子どもが自己破産しても親に責任が及ぶことはありません(なので保証料はケチらないでください)。

 問題は、地方在住の方で自宅周辺は大学の選択肢が限られるケース(あるいは家の場所に限らず行きたい大学が実家の近所に無いケース)で、なおかつ就職後も実家には戻らず一人暮らしが継続するケースです。

 このような状況であれば大学に行くべきかどうか、大学に行くことで収入は本当にアップするのか、つまり大学に行く意味はあるのか、慎重に考えなければいけなくなります。

 ここまで話が進むと、あとは親子で考えるべき問題でFPがアドバイスできる範囲から外れてしまいます。大卒者のほうが高卒者よりも生涯賃金が多いといったデータはありますが、ごく一部とはいえ返済に窮する人はいます。子どもの能力や趣味嗜好、就職のタイミングは景気が良いか悪いか、その時々の経済の環境(就職氷河期など)などにより判断は変えるべきでしょう。

 地方在住の方を切り捨てるような話で何とも心苦しいのですが、日本全国の大学数は780校、その中でも東京は138校と47都道府県で最も大学数の多い自治体になります。加えて神奈川・埼玉・千葉はそれぞれ32校、28校、27校で8、9、10位と、合計すると大学の1/4以上が首都圏に集中しています。なお、2位は大阪で55校、3位は愛知で51校といずれも都市部です。

 大学数が10校以下の自治体は27、5校以下でも10もありますので、大学はかなり偏在していることが分かります。地方在住の方には納得できない面も多々あると思いますが、残念ながら現状ではこうなっているという説明になります(文部科学省「平成29年度・学校基本調査」より)。

 加えて今後の人口減少は都市部ではごく緩やかに、地方では急激に進むことから、地方の大学が統廃合される可能性も高く、大学の偏在はさらに加速するかもしれません。

 奨学金返済が困難になる原因として、大学が都市部に偏在しているという状況は学生には責任の無い話ですから、地方在住で都市部への進学希望者には給付型の奨学金を優先して支給する、学生寮を国が作るといった対策も考えられますが、これは政策の話でFPの守備範囲からさらにズレますのでここでは言及しないでおきます。

 今回の記事はすでに多額の奨学金を借りている人、返済に困っている人にはあまり役に立つ内容ではなかったかもしれませんが、将来の進学について漠然と奨学金が怖いと考えていた方には、奨学金の意味や将来的に多額の奨学金を借りる状況になるかどうか、判断材料になったのではないでしょうか。参考にしていただければと思います。

■3ページ目の東京の大学数が137校とあったのは138校、神奈川・埼玉・千葉がそれぞれ31校とあったのは32校、3位の愛知が30校とあったのは51校の誤りでした。また、大学数が10校以下の自治体が25とあったのは27、5校以下が12とあったのは10の誤りでした。お詫びして訂正いたします。(2018年4月3日)