自宅か一人暮らしか? それが問題だ

 やはり奨学金は多額の借金を作り出す危ない仕組みだ……と思うかもしれませんが、自宅から大学に通える家庭であれば負担すべき額は大幅に減ります。そして就職後も、自宅からの通勤では返済時の状況も全く違います。実家か一人暮らしかの違いは、在学中の生活費のみならず、返済時の状況にも強く影響を与えます

 初任給で一人暮らしをしながら返済する場合は、奨学金の返済が重くのしかかります。一方で、実家に住んで家にお金を入れない、もしくは数万円を親に渡す程度なら奨学金の返済に困ることはまずありません。

 奨学金の返済で困っている、自己破産に陥った、という報道を目にした際はぜひ丁寧に確認してください。そのほとんどが在学中と就職後のどちらか、あるいは両方で地方から上京して一人暮らしをしているケースです※。

 例えば、奨学金を毎月10万円、総額で480万円借りた場合、現在の金利水準であれば毎月の返済額は月額2万573円、総額で約493万円です(日本学生支援機構、第二種奨学金、2017年3月の固定金利・0.27%で計算。返済期間は20年。期間保証制度を利用した場合、別途約26万円の保証料が必要)。

 総額で見ればかなりの額ですが、毎月の返済額である2万円は自宅から通勤する人にとって決して大きい負担ではありません。就職に失敗してフリーターになったとしても、返済できないことはまずありません。

 東京など首都圏の最低賃金で100時間ちょっと働いて10万円も稼げば、奨学金と自身のお小遣い、家に入れる生活費は十分賄えるでしょう。加えて、自宅からの通学でここまで借り入れ額が増えるケースは、私立理系で親の学費負担がゼロに近いケースです。

 このように見ていくと、奨学金の問題は教育費の問題に見えて、実は生活費の問題であることが分かります。現在、教育費無償化の議論も出てはいるものの財源の問題で実現はかなり難しいように思います。仮に大学の費用が無料になったとしても一人暮らしをすれば結局多額の生活費がかかります。教育費の無償化ですべての問題が解決するわけではありません。

 ※一人暮らしに加えてもう一つ返済に困るケースで多いのが母子家庭です。母子家庭や父子家庭には進学に当たって援助があってよいかもしれませんが、これは学費の問題ではなく社会保障の問題です。