動機も目的も、期間も行く先も様々な「親子留学」。経営者としての働き方改革がきっかけになった例もあります。カナダ・カルガリーへ中学1年生の息子と語学留学した翻訳会社エイアンドピープルの浅井満知子社長は、10年前から取り組んできた働き方改革の一環として、3週間の長期休暇を取りました。残業時間を減らし業務に集中的に取り組むためにはリフレッシュ休暇が必要と考え制度を整えたものの、社員たちは消極的。そこで「まずはトップである私が見本を見せよう」と決行した留学でした。今回の記事では、計画を立てて実行に移すまでを紹介します。

業務効率化、時間管理で残業を5分の1に

 IT企業の営業職、翻訳会社のシステム事業部、その後同社の翻訳事業部営業コーディネータ―を経て、1998年に翻訳会社エイアンドピープルを設立した浅井満知子さんは、夫と13歳の息子と3人で暮らす。自身の子育ての経験から、「女性がイキイキとキャリアアップを重ね長く働き続ける職場づくり」に早くから取り組んできた。

 本腰を入れて対策を取り始めたのは10年ほど前。翻訳業界は恒常的に残業が多く、夜9時を過ぎてから急ぎの案件が入ることもざら。「繁忙期は社員は終電まで残業することも多く、私自身も子どもができるまでは、毎日深夜まで働き詰めで、そのことに何の疑問も感じませんでした」と話す。

 「もともと業界には女性が多く、当社の社員は特に真面目に頑張るタイプばかり。でも、長時間労働が当たり前になってしまうと、結婚や出産を機に離職せざるを得なくなり、キャリアが持続しません。お客様に対しても同じ担当者が長くお付き合いできるほうが、信頼や安心につながります。会社の発展のために思い切った対策を取ろうと思いました」

 当時、妊娠・出産を迎える年齢の社員が増えていたことも、働き方改革を急ぐ理由だった。

 浅井さんはまず、より効率的に業務を進められるよう、新たな業務システムを導入。次に、徹底した時間管理ルールとシステム化を取り入れ、可視化した。毎朝、管理職がチームミーティングを行って、15分単位で1日のスケジュールを確認することを習慣化したという。「1時間の予定だった会議を45分に短縮するだけで生産性は上がりました」。同時に、社員に対して「残業を多くしたからといって評価はしません」と宣言し、時間ではなく成果で評価する姿勢を示した

 とはいえ、“お客様ありき”の事業ゆえ、自社にとどまるだけの取り組みでは限界があると感じていた浅井さん。残業削減を徹底するため、「社員全員にさらに積極的にお客様とのコミュニケーションを図り、お客様からの業務のご依頼があってからハンドリングをするのではなく、お客様のプロジェクト計画を事前に確認させていただき、どのタイミングで翻訳をスタートするか、翻訳スタッフの誰をアサインするのか、何にポイントをあてて業務を遂行するのかを定め、準備を整えて対応するよう、『顧客を巻き込む』取り組みも始めました」

 地道な積み重ねの結果、残業時間の平均は月75時間から月20時間以内へと激減。そして就業時間の18時終業を17時30分終業へ30分削減した。社員からは「子どもを保育園に迎えに行った後に病院にも連れていけるようになった」「夜間のMBAコースを受講できる」という満足の声が聞かれるようになったそう。

 しかし、浅井さんの目はすでに新たな課題に向いていた。